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ご自身や周囲でメールが届かない等の不具合がございましたら、お手数ですがこちらまで連絡いただければ幸いです。

第10回日本独文学会関東支部研究発表会のご案内

 

下記の日程で第10回日本独文学会関東支部研究発表会を開催いたします。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。

日時:2019年11月24日(日)14:00-16:50(13:30開場)

場所:成城大学3号館1階312教室

参加費:関東支部会員は無料、非会員は500円

プログラムと発表要旨のダウンロード: 2019関東支部研究発表会.pdf

 

プログラム

14:00〜14:05 開会の挨拶:支部長:今村武

14:05〜14:40 中村大介
対峙するふたりの自然研究者―E.T.A. ホフマン『ハイマトカレ』について―

14:45〜15:20 菅谷優
19世紀パリの言説 『パサージュ』読解にむけて

15:20~15:35 休憩

15:35〜16:10 積田活樹
飛んでいるのか、漂っているのか―インゲボルク・バッハマンの飛行機の表象

16:15〜16:50 林敬太
無形文化遺産条約に対するドイツ語圏の動向

16:50 閉会の挨拶

17:00〜 懇親会   ※懇親会の開始時間が変更になりました。

開場中、上記のプログラムに加えて、書店・出版社等による書籍展示が行われます。

 

(ご連絡)

1.会場予約の関係上、すでに懇親会へのご出席をお決めの方は、eingang@jgg-kantou.orgまでメールをいただければ幸甚です。

2.当日、新規入会申し込みおよび会費(年会費500円)の納入ができます。

 

<日本独文学会関東支部>
(支部長)今村武 (支部選出理事)前田佳一
(会計幹事)山本潤 (広報幹事)桂元嗣 (庶務幹事)日名淳裕

 

会場のご案内
成城大学3号館1階312教室(3号館は正門から入って左の建物)

交通アクセス
小田急線成城学園前駅から徒歩4分 

住所
〒157-8511 東京都世田谷区 成城6-1-20

成城大学交通案内URL
http://www.seijo.ac.jp/access/

※小田急線の快速急行は成城学園前駅に停車いたしません。急行をご利用ください。

 

 

発表要旨

 

発表1(文学)中村大介

対峙するふたりの自然研究者-E.T.A. ホフマン『ハイマトカレ』についてー

 E.T.A. ホフマンは、ハワイを舞台とした『ハイマトカレ』という書簡体の物語を残した。親友同士であったメンジースとブロートンという自然研究者ふたりがオアフ島で虱を巡って決闘に及び、両者の死で幕を閉じる。

これまでの研究においてはこの作品は学問もしくは研究者への批判・諷刺として読まれてきた。この作品については近年ポストコロニアリズムの文脈から解釈する研究も出ているが、それでもこの作品の学問・研究者への批判・諷刺という側面は見逃されてはならない。メンジースは昆虫の研究者、ブロートンは植物・動物の研究者と、ふたりの研究分野の違いがあるにも関わらず、両者の描き分けについては先行研究で十分に論じられているとはいえない。文学や芸術における学者諷刺を論じたコジェニーナによれば昆虫を研究する者は諷刺の格好の対象となっており、そうした作品を書いたものとして、ドイツ語圏ではボードマー/ブライティンガーの例があげられる。『ハイマトカレ』の昆虫学者に対する戯画的な描写は明らかにこうした流れを汲んでいる。

オアフ島探検隊への参加を許されながら孤独を抱える昆虫学者メンジースと、隊の正式メンバーとして自分の役割を果たそうとするブロートンとのあいだには差異が見られ、研究者として一括りにして論じてしまうのは適切ではない。本発表では、『ハイマトカレ』はそれまでにあった昆虫学者諷刺の流れを汲み、さらに18世紀ごろからの博物学の流行を背景としながら、孤独な研究者と組織の一員として活動する研究者との対峙の様相を描いた物語であることを示す。

 

発表2(文学)菅谷優

19世紀パリの言説 『パサージュ』読解にむけて

W・ベンヤミン『パサージュ』の読解を目指しての博士論文の執筆、過程は大きく三つに分けられる。:1.都市の交通を避けて遊歩が可能な具体的空間としてのパサージュが意義を持つに至る19世紀中庸までのパリの状況描出 2.パサージュおよび郊外に至る場末通りを後にし、雑踏と交通が満ちる市街地・街路における遊歩の術を身に着けた「現代的遊歩者」の記述(モデル:ボードレール)3.遊歩の技術を内化することで成立した都市生活の主体、そして技術的に招来される「集合」によるこの遊歩者的主体性の断続的な中断と発散の可能性の記述、サイレント期の映画受容をモデルとして。なかでも今回は第一第二過程に焦点を絞って概要を述べたい。『複製芸術論』において提出される拡散的注意力(「確信を剥ぐ…」)、このメカニズムを『パサージュ』の読解において作動させる可能性の呈示を博士論文は目指すことになるが、今回はその前提状況として、集中の原理が伝統的経験の儀式性とはともに死なず、いかに希薄化しつつ都市交通・生活における主体性(「商品への感情移入…」)を構成するに至ったか、を浮き彫りにする。

 

発表3(文学)積田活樹

飛んでいるのか、漂っているのかーインゲボルク・バッハマンの飛行機の表象

 本発表はインゲボルク・バッハマンの飛行機の表象について論じる。しばしば彼女の作品には飛行機のモチーフが様々なかたちで登場する。しかし先行研究で飛行機表象が注目されたことはほとんどなかった。飛行機の発明と普及によって、人間の知覚と社会は大きく変化した。文学が飛行機をどう描いてきたかという主題は研究に値する。 そこで彼女の初期詩作品(1944-1953)とエッセイ『密航者たち』(1955)に登場する飛行機モチーフの分析を試みる。

彼女の最初期の詩には飛行機こそ登場しないものの、飛行のモチーフが頻出する。ハンス・ヘラーの研究(1987)によれば、初期詩作品は作者自身の戦争経験と密に結びついており、それは飛行モチーフが登場する作品にも当てはまる。飛行機を主題とした詩「夜間飛行」(1953)も例外ではなく、戦争のトラウマ的記憶と結びつけて解釈できる。

『密航者たち』は作者自身の飛行機体験を主題化したエッセイである。「夜間飛行」と同様、この作品でも飛行機の表象は暴力と結びついている。そうした飛行機に対する批判的観点は、マルティン・ハイデガーがブレーメン講演(1949)で展開した飛行機批判と部分的に通底する。 一見、このエッセイは一貫して飛行機を批判しているように思える。しかし作中の乗客の視覚の描写に着目すれば、バッハマンの中心的トポスである「越境」が飛行機によって実現していると解釈できるだろう。彼女の飛行機表象は単なる近代技術批判ではなく、その克服も示唆しているのではないか。

 

発表4(文化)林敬太

無形文化遺産条約に対するドイツ語圏の動向

 本発表は前年度に行われた発表である「無形文化遺産と謝肉祭」に続くもので,ユネスコが制定した無形文化遺産条約に対するドイツ語圏の活動を通じて,ユネスコで行われている「文化」概念に対する議論を分析する。

ユネスコではヨーロッパ圏の価値観に則った世界遺産条約の制定と並行して,非ヨーロッパ圏の文化を保護するための議論が行われ,21世紀に入ってから無形文化遺産条約として結実した。その議論は実に30年以上に及び,「無形文化」という存在がどのようなものかという定義付けがユネスコによって行われた。条約制定までの経緯や条約が持つ理念については,これまでに国連職員やジャーナリストなどによって概要が報告され,前年度の発表でも取り上げられた。しかしながら,加盟国の提案によって条約の内容が変化する,という無形文化遺産条約の性質上,条約の内容は常に更新される可能性があるため,条約に対する研究は継続され続けるべきだと言える。

無形文化遺産への登録に向けた加盟国の活動は,ただ加盟国の側が一方的にユネスコの設定した査定基準に従うものではなく,加盟国が登録を望む候補を立てることを通じて条約に働きかけることができる相互的なものであり,条約締結国全てが注目すべきものである。例えば,ドイツは謝肉祭といった祝祭や他の様々な文化的活動の主体となる「協同組合」を自国では初めての無形文化遺産として登録し,それは日本の民俗学者などに驚きをもって迎えられた。このような市民団体の活動がドイツ語圏の無形文化にとって大きな役割を果たしていることが,ユネスコによって可視化されたと言える。ドイツ語圏の文化を知るために,その背景となる市民の活動を知ることが今後はより重要であると言えるだろう。

第10回日本独文学会関東支部研究発表会の開催と発表者募集のお知らせ(11月24日開催)

 
下記の日程で第10回日本独文学会関東支部研究発表会を開催いたします。
発表ご希望の方は、奮ってご応募くださいますようどうぞよろしくお願い申し上げます。
まだ関東支部に加入していない研究者・院生の方々にもお知らせいただけると大変ありがたく存じます。
1.日時:201911 24日(日)13:00から(開始時間は変更の可能性あり)
 
2.会場:成城大学3号館1312教室(3号館は正門から入って左の建物)
交通アクセス:小田急線成城学園前駅から徒歩4分(下記URLを参照)
http://www.seijo.ac.jp/access/
1:小田急線の快速急行は成城学園前駅に停車いたしません。急行をご利用ください。
 
3.発表内容・形式
・ドイツ文学・文化・語学・教育・社会に関する研究
・発表時間25分 + 質疑10分(日本独文学会の口頭発表に準じる)
  
4.応募要領
以下の内容を記し、日本独文学会関東支部:eingangjgg-kantou.org(@を小文字にしてください)までメールにてお申し込みください。
(1)氏名
(2)連絡先(住所、メールアドレス、電話番号)
(3)所属
(4)研究発表表題
(5)発表内容要旨(600字程度) 下記の内容を踏まえて作成してください。
・研究の目的
・先行研究との関連
・主張したいテーゼ
  
5.発表後、発表要旨は日本独文学会関東支部ホームページ上に公開いたします。 
6.締め切り:915日(日) 
 
7.結果連絡:9月下旬ごろに結果および発表要領の詳細についてお知らせする予定です。
  
2019年8月1日
支部長    今村 武
支部選出理事 前田 佳一
会計幹事   山本 潤
庶務幹事   日名 淳裕
広報幹事   桂 元嗣

2018年第9回日本独文学会関東支部研究発表会

2018年11月 24日(土)にお茶の水女子大学において第9回日本独文学会関東支部研究発表会が開催されました.
当日は7名の方に報告していただき、その後活発な議論が交わされました.
終了後は,懇親会で遅くまで議論や情報交換が続きました.

プログラム

12:30〜12:35 開会の挨拶:支部長:境 一三

<第一部 文学> 司会:須藤 勲 松鵜 功記

12:35〜13:15 五十嵐 遥也
認識主体と万物流転の世界-マッハの認識論によるムージル『愛の完成』読解の試み

13:15〜13:55 石橋 奈智
「白昼夢」の克服-ホーフマンスタール『帰国者の手紙』における複数の空間について

13:55〜14:35 栗田 くり菜
ステレオタイプを笑う-ヤーデ・カラの『セラーム・ベルリン』より

14:35〜15:15 森下 勇矢
グリンメルスハウゼンの愚者概念-ジンプリチシムス作品群の宗教要素と愚の連関

15:15〜15:30 休憩

<第二部 言語学・文化・社会> 司会:浅井 英樹 渡邊 徳明

15:30〜16:10 白井 智美
日独空間表現の分析における「話者の(非)客体化」視点の説明能力について

16:10〜16:50 林 敬太
ユネスコ無形文化遺産と謝肉祭

16:50〜17:30 山本 菜月
親になりたい者は誰か:出生意欲と家族像の関連

17:30〜17:40 幹事会からの報告

17:40 閉会の挨拶

 

第9回日本独文学会関東支部研究発表会のご案内

下記の日程で第9回日本独文学会関東支部研究発表会を開催いたします。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。

日時:2018年11月24日(土)12:30-17:35(12:00開場)

場所:お茶の水女子大学本館125教室

プログラムと発表要旨のダウンロード: 2018関東支部研究発表会.pdf

 

プログラム

12:30〜12:35 開会の挨拶:支部長:境 一三

<第一部 文学> 司会:須藤 勲 松鵜 功記

12:35〜13:15 五十嵐 遥也
認識主体と万物流転の世界-マッハの認識論によるムージル『愛の完成』読解の試み

13:15〜13:55 石橋 奈智
「白昼夢」の克服-ホーフマンスタール『帰国者の手紙』における複数の空間について

13:55〜14:35 栗田 くり菜
ステレオタイプを笑う-ヤーデ・カラの『セラーム・ベルリン』より

14:35〜15:15 森下 勇矢
グリンメルスハウゼンの愚者概念-ジンプリチシムス作品群の宗教要素と愚の連関

15:15〜15:30 休憩

<第二部 言語学・文化・社会> 司会:浅井 英樹 渡邊 徳明

15:30〜16:10 白井 智美
日独空間表現の分析における「話者の(非)客体化」視点の説明能力について

16:10〜16:50 林 敬太
ユネスコ無形文化遺産と謝肉祭

16:50〜17:30 山本 菜月
親になりたい者は誰か:出生意欲と家族像の関連
17:30〜17:40 幹事会からの報告

17:40 閉会の挨拶

18:00〜 懇親会

開場中、上記のプログラムに加えて、書店・出版社等による書籍展示が行われます。

(ご連絡)
1.会場予約の関係上、すでに懇親会へのご出席をお決めの方は、eingang@jgg-kantou.orgまでメールをいただければ幸甚です。
2.当日、新規入会申し込みおよび会費(年会費500円)の納入ができます。

(会場のご案内)

お茶の水女子大学 本館125教室
※本館は正門から入って正面すぐの建物です。
※正門から入る際に守衛に呼び止められた場合は「日本独文学会関東支部研究発表会」とお伝えください。
※お茶の水女子大学はJR御茶ノ水駅の近所にはありません。

(交通アクセス)

茗荷谷駅(東京メトロ丸ノ内線)徒歩7分
※大学HPには護国寺駅(東京メトロ有楽町線)からも徒歩圏内であるとの記載がありますが、当日は護国寺駅に近い「南門」が閉じられているため、茗荷谷駅からのご来場をお勧めします。

住所
〒112-8610 東京都文京区大塚2-1-1

お茶の水女子大学交通案内URL
http://www.ocha.ac.jp/access/index.html

<日本独文学会関東支部>
(支部長)境 一三 (支部選出理事)浅井 英樹
(会計幹事)渡邊 徳明 (広報幹事)松鵜 功記 (庶務幹事)須藤 勲、前田 佳一

発表要旨

発表1(文学)五十嵐 遥也
認識主体と万物流転の世界―マッハの認識論によるムージル『愛の完成』読解の試み

本発表はローベルト・ムージル(1890-1942)の『愛の完成』(1911)における脱自的描写について、彼が博士論文(1908)で論じたエルンスト・マッハ(1838-1916)の知覚理論からの影響のもとにあると仮定し論じる。
マッハはあらゆる知覚は関数的依属関係の節減的(ökonomisch)な把握であり、「自我」や「物体」という概念でさえ、色、音、熱、圧、空間、時間などの基礎的な要素を任意にまとめた「仮想的な単位」であるとし、科学に留まらず当時の文学、芸術、政治に大きな影響を及ぼした。しかしそれと同時にその理論の矛盾も当初から少なからず言われており、そのうち最も重大なものとして、自我はないにしてもそれ以前のいわば最小限の認識する主体のようなものは想定せざるをえないことが、ヘーニヒスヴァルトによる先駆的なマッハ批判(1903)によって既に指摘されている。つまり、マッハの認識論は「感覚要素一元論」と呼ばれるにも関わらず、実際は「万物が流転する」世界とそれを認識し整序する最小限の主体の二元論にならざるを得ないのである。それゆえ、さらに言うならば、ここでは他の認識主体は「どうしても念頭に迫ってくる根強いアナロジー」としてしか存在の根拠を持たないのだ。
マッハからムージルへの影響を論じる際、先行研究ではこうした認識主体の問題について単なる矛盾として紹介するにとどまっていたが、『愛の完成』がまさしくこの矛盾を前提に全体の叙述がなされていることを明らかにするのが本発表の目的である。

 

発表2(文学)石橋 奈智
「白昼夢」の克服 ―ホーフマンスタール『帰国者の手紙』における複数の空間について

ホーフマンスタール『帰国者の手紙』は、第一から第五の手紙で構成されているが、このうち第一から第三の手紙は1907年に発表され、第四・第五の手紙は1908年に『見ることの体験』という題で「『帰国者の手紙』から」という脚注とともに発表された。最も有名な、帰国者がゴッホの絵画を見る体験をするのは第四の手紙であること、また、ホーフマンスタールの生前には五通の手紙が同時に発表されることはなかったことなどから、近年の研究では第四・第五の手紙、とりわけゴッホ体験が重点的に扱われ、絵画とテクストの相互作用についての議論が中心的となっている。
本発表では、ゴッホ体験が頂点とみなされがちなこの作品を、第三から第五の手紙にわたって現れる種々の空間に着目することによって、この作品に新たなイメージ論的観点を見出すことを目標とする。以下を、全体的あるいは部分的に題材とする予定である。1.(第三の手紙)帰国者が幼少時に父親からデューラーの版画を見せられた塔の部屋。2.(第四の手紙)帰国者が投獄されていた牢とそこから見えた水牛の死の光景。3.(第四の手紙)帰国者がゴッホの絵画を目撃する部屋。4.(第五の手紙)ブエノスアイレスの港で、船上の帰国者のもとに現れた「深淵」。これらの空間を、第一の手紙に登場する「白昼夢」 ―視覚において知覚した像と脳内において想起した像とが同時に現れる分裂状態― を手がかりに、その克服として考察することを試みる。

 

発表3(文学)栗田 くり菜
ステレオタイプを笑う-ヤーデ・カラの『セラーム・ベルリン』より

ドイツのトルコ系女性作家であるヤーデ・カラ(Yadé Kara, 1965-)が2003年に発表した『セラーム・ベルリン(Selam Berlin)』は、主人公のハサン・カザーンが壁崩壊後のベルリンを舞台に、多くのトルコや東ドイツの出身者と関わりを持ちながら、仕事や恋など様々な経験をする小説である。従来この作品を対象にした研究は、ベルリンの壁崩壊をテーマとするものと、両親がトルコ出身でありながらドイツで育ったハサンが抱くアイデンティティのゆれに注目するものの二つの方向から行われてきたが、トルコや東ドイツの出身者に対する偏見から生じる軋轢が、滑稽に描かれているという点に着目した研究は無かった。本発表ではまずハサンが偏見と対峙する滑稽な場面を取り上げ、同系統の概念である笑いやフモールと比較しながら、笑いのような反応を人為的に惹起する形式である滑稽さを検討する。移民背景を持つ作家自らが、偏見から生じる軋轢を滑稽に描くこと自体が、従来の単一文化的な見方の批判と捉えることができるのではないか。また本作品では、ハサンに内在する東ドイツ出身者に対する差別的な視線も一見滑稽に描かれるが、果たしてこれは滑稽といえるのだろうか。本発表では作品分析を通じ、自分が抱く先入観と対峙し、己の内面に批判的な視線を向けることで、自己と異質なものの境界線があいまいになり、文化の規範や思考様式を自明視することのあやうさについて論じる。このあやうさは、つまるところ越境文化をめぐる問題であるといえるのではないだろうか。

 

発表4(文学)森下 勇矢
グリンメルスハウゼンの愚者概念-ジンプリチシムス作品群の宗教要素と愚の連関

セバスティアン・ブラントの『阿呆船(1494)』は「愚者文学」の嚆矢として広範な読者に親しまれ、この作品ジャンルの核となる愚者は舞台・諷刺作品にその活躍の場を見出す。このモティーフは『阿呆物語Der Abentheuerliche Simplicissimus Teutsch(1668)』の悪漢ジンプリチウスとして結実し、「この世の堕落を眼前に晒す(Welzig, 1963)」ための鏡として機能し、人々の倫理的堕落を辛辣に諷刺する。グリンメルスハウゼン研究の中で頻繁に扱われてきたこの論はしかし、「ポリフォニー(Verweyen, 1990)」と称される作品の多層性・複合性ゆえに、愚者概念の表面的な部分に関するテーゼの域を出ない。本発表は、諷刺要素に覆われ曖昧模糊とした愚者概念の本質を突き止め、包括的な調査を通して一面的な作品理解からの脱出を試みるものである。
グリンメルスハウゼンは『阿呆物語』の発表後、周辺作品の執筆を通して「ジンプリチシムス作品群Der Simplicianische Zyklus」を完成させており、作品間のつながりを考慮せずには個々の作品の十全な理解は不可能であると述べる。そのため周辺作品相互の結びつきを考慮に入れたアプローチが必要となるが、今回の分析では主に『放浪の女ペテン師クラーシェ(1669)』ならびに『風変わりなシュプリングインスフェルト(1670)』を取り上げる。両作品の主人公とジンプリチウスが有する愚者性の比較対照を通して、著者が抱く愚者像の明瞭化を図る。考察にあたって、回心を経たジンプリチウスが強い宗教性を湛えた筆致で描かれる一方で、クラーシェとシュプリングインスフェルトが一貫して頑なな罪人として描写される構図に着目し、背徳者としての愚の性質が敬虔さの有無によって変容する点に比重をおく。

 

発表5(言語学)白井 智美
日独空間表現の分析における「話者の(非)客体化」視点の説明能力について

現代言語学で空間表現を分析する際に依拠する言語理論の多くは、「客体化された世界」に当該の空間関係が言語的に再構築されることを前提しているように思われる。本報告ではまず、この言語的に再構築される世界の客体性は、空間関係を言語化ないしは認識する主体が、その際に自分自身を客体化するか否かと相関関係にあると考えられることを指摘する。ここで問題にする、話す主体の客体化―非客体化と、それぞれの場合にコンセプト上可能になる「言語的に再構築される世界」については、次のR. Langacker (1990)1の例を想定すると分かりやすい。
1. Anna sitzt mir am Tisch gegenüber.
2. Anna sitzt am Tisch gegenüber.
この二つの文が同じ空間関係を表している場合を考える。そうすると、例えば一人称代名詞の使用を手掛かりに、話す主体が客体化されていると考えてよさそうな(1)では当該の空間関係は、話者自身から客体化した世界に再構築されており、話す主体が客体化されていると考える積極的な言語的証拠の見られない(2)では、同じ空間関係を言語的に再構築する世界として、必ずしも話者自身から客体化した世界を前提する必要はなさそうだという相関関係をみることができる。今仮に、話者の自分自身の客体化の有無に応じて、話者自身から客体化する世界(1)としない世界(2)という二つの空間コンセプトを想定することができるとすると、この前提されている空間の差を考慮すると、空間移動の表現はどのように分析できるだろうか。日本語の「いく/くる」とドイツ語のgehen/kommenが同じ空間関係を指しつつも、Ich komme gleich!/「今行くよ。」のようにその適用が異なる場合の検討を通して、この「話者自身の(非)客体化」という視点が空間表現の記述・説明にどの程度有効か確認したい。
1R. Langacker (1990) Subjectification. In: Cognitive Linguistics I. 5-38. 例文は英語より翻訳。

 

発表6(文化)林 敬太
ユネスコ無形文化遺産と謝肉祭

本研究では,ドイツ語圏で開催されている謝肉祭について,国連機関であるユネスコが制定した無形文化遺産条約への登録活動が行われている現状を分析し,この現象がどのような意味を持っているのかを探る。
これまでドイツ語圏の謝肉祭について,中世に開催されたものについては演劇の一種として,或いは都市生活文化史の対象としてドイツ語圏でも日本でも研究が行われてきた。また,19世紀から20世紀の変遷を振り返る社会学的な研究も行われている。しかしながら,今現在の状況を分析した先行研究はいまだ希少である。
他方,ユネスコでは主に非ヨーロッパ圏の文化を保護するための議論が行われ,21世紀に入ってから無形文化遺産条約として結実した。その議論は実に30年以上に及び,「無形文化」という存在がどのようなものかという定義付けがユネスコによって行われた。
ドイツ語圏の謝肉祭は開催される地域やそれを越え広く国家や時代の影響を受け,変化しながらも一定の形を保ってきた。無形文化遺産への登録に向けた活動は近年の変化の中でも最も大きなものだと思われる。それはただ謝肉祭の側が一方的にユネスコでなされた議論の影響を受けるだけではなく,相互的なものであり,条約締結国全てが注目すべきものである。例えば,ドイツは既に謝肉祭や他の文化的活動の主体となる「市民団体」を無形文化遺産に登録している。このような市民団体の活動がドイツ語圏の無形文化にとって大きな役割を果たしていることがユネスコによって可視化されたと言える。ドイツ語圏の文化を知るために市民団体の実情を知ることが今後はより重要であると言えるだろう。

 

発表7(社会)山本 菜月
親になりたいものは誰か:ドイツにおける出生意欲と家族像の関連

近年のドイツの出生率回復には、多産とされる移民の増加や家族政策の方針転換だけでなく、ドイツにおける家族の意味が変化したことが、大きな役割を果たしていると考えられる。国内外での先行研究においては、出生力に影響するものとして年齢や、収入、教育レベルなどの社会経済的要因および近代以降の価値観の変容などが挙げられてきた。しかし、個人の意識と出生力、特に子どもを持つことの実現についてはどのような関係を持っているのかについてはまだ議論が始まったばかりである(Fasang, Huinink, Pollmann-Schult 2016)。そこで本発表では、2012年に実施された「ドイツの家族像」調査個票を用いて、20~30代の男女(N=5000)における家族像が出生意欲にどのように影響しているかを、統計的手法を基に検討する。
予備的な分析では、伝統的価値観を持つ層は出生意欲が高く、子どもを持つことへの経済的負担感を持つ層は出生意欲が低くなることが明らかになった。また、出生意欲が高いとされる移民背景を持つ者については、男女で結果が異なっていた。報告時は、上記以外にも複数の変数を用いて分析し、ドイツにおける若い世代の出生意欲の規定要因を明らかにする。

第9回日本独文学会関東支部研究発表会の発表申し込み締め切り延長のお知らせ

第9回日本独文学会関東支部研究発表会(11月24日(土)お茶の水女子大学にて開催予定)の研究発表申し込み締め切りは9月15日(土)でしたが、まだ若干の余裕がありますので、締め切りを10月8日(月)まで延長いたします。

発表ご希望の方は、奮ってご応募くださいますよう

どうぞよろしくお願い申し上げます。

発表申し込みの詳細につきましては,こちらをご覧ください.

第9回日本独文学会関東支部研究発表会の開催と発表者募集のお知らせ(11月24日開催)

第9回日本独文学会関東支部研究発表会の開催と発表者募集のお知らせ(11月24日開催)

下記の日程で第9回日本独文学会関東支部研究発表会を開催いたします。
発表ご希望の方は、奮ってご応募くださいますようどうぞよろしくお願い申し上げます。
まだ関東支部に加入していない研究者・院生の方々にもお知らせいただけると大変ありがたく存じます。

1.日時:2018年11月 24日(土)13:00から(開始時間は変更の可能性あり)

 

2.会場:お茶の水女子大学本館125教室(本館は正門から入って正面すぐの建物)
交通アクセス:丸ノ内線茗荷谷駅から徒歩7分(下記URLを参照)
http://www.ocha.ac.jp/access/
注1:上記HPには有楽町線護国寺駅からは徒歩8分とありますが護国寺駅に近い「南門」は土曜は閉まっているため正門に近い茗荷谷駅からのご来場をお勧めします。
注2:お茶の水女子大学はJR御茶ノ水駅の近所ではありません。

 

3.発表内容・形式
・ドイツ文学・文化・語学・教育に関する研究
・発表時間25分 + 質疑10分(日本独文学会の口頭発表に準じる)

 

4.応募要領
以下の内容を記し、日本独文学会関東支部:eingang@jgg-kantou.org(@を小文字にしてください)までメールにてお申し込みください。
(1)氏名
(2)連絡先(住所、メールアドレス、電話番号)
(3)所属
(4)研究発表表題
(5)発表内容要旨(600字程度) 下記の内容を踏まえて作成してください。
・研究の目的
・先行研究との関連
・主張したいテーゼ

 

5.発表後、発表要旨は日本独文学会関東支部ホームページ上に公開いたします。

 

6.締め切り:9月15日(土) 10月8日(月)まで延長

 
7.結果連絡:10月上旬ごろに結果および発表要領の詳細についてお知らせする予定です。

 
2018年7月16日

支部長    境一三
支部選出理事 浅井英樹
会計幹事   渡邊徳明
庶務幹事   須藤勲、前田佳一
広報幹事   松鵜功記

「シンポジウム 名前の詩学 -文学作品における固有名と否定性の諸相」のお知らせ

シンポジウム

名前の詩学 -文学作品における固有名と否定性の諸相

2018年 2月11日(日) 東京大学本郷キャンパス法文1号館113教室(参加無料・事前申し込み不要)

(共同主催:東京大学ドイツ語ドイツ文学研究室・日本独文学会関東支部)

13:00-13:15 導入 前田佳一(お茶の水女子大学助教)

<研究発表>
13:15-13:55 ホフマンとディドロ 宮田眞治(東京大学准教授)

13:55-14:35 ベルリンは存在しない – ウーヴェ・ヨーンゾンにおける境界と名称 金志成(早稲田大学大学院博士課程)

14:35-15:15 名前の廃墟 – インゲボルク・バッハマンの固有名の詩学 前田佳一(お茶の水女子大学助教)

15:15-15:30 休憩

<講演>
15:30-16:30 Nemo mihi nomen – あるアナグラムの系譜 平野嘉彦(東京大学名誉教授)

16:30-16:40 休憩
16:40-17:30 質疑応答・ディスカッション

本シンポジウムはJSPS科研費プロジェクト基盤研究(C)「文学にお ける固有名の機能とその受容についての研究-ドイツ語文学の場合」 (研究代表者:前田佳一,JP15K02422)の助成を受けたものです。

問い合わせ先: 前田佳一(お茶の水女子大学) maeda.keiichi@ocha.ac.jp 東京大学ドイツ語ドイツ文学研究室 dokubun@l.u-tokyo.ac.jp

「名前の詩学」ポスターのダウンロード

第8回関東支部研究発表会

2017年11月 11日(土)に慶應義塾大学日吉キャンパスにおいて第8回関東支部研究発表会が開催されました.
当日は4名の方の報告に対して約26名の参加があり,活発な議論が交わされました.
終了後は,懇親会で遅くまで議論や情報交換が続きました.

 

  1. 研究発表会

14:00 開会の挨拶:支部長 境 一三

14:10-14:45 山取 圭澄
「『ラオコオン』批判に現れる詩的言語–何故、ヘルダーは『批評の森』にて匿名を貫くのか–」
(司会:浅井 英樹、松鵜 功記)

14:50-15:25  石橋 奈智
「エッセイ『夢の像としての舞台』にみられるホーフマンスタールのマッハおよびベルクソン受容」
(司会:前田 佳一、須藤 勲)

15:40-16:15 葛西 敬之
「ドッペルゲンガーの恋―ローベルト・ヴァルザー『盗賊』と長編小説を書くということ」
(司会:松鵜 功記、浅井 英樹)

16:20-16:55 吉村 創
「新学習指導要領に適したドイツ語授業案」
(司会:前田 佳一、須藤 勲)

  1. 16:55-17:10 幹事会からの報告

17:10 閉会の挨拶

 

第8回日本独文学会関東支部研究発表プログラム(PDF版)

第8回日本独文学会関東支部研究発表会の開催のお知らせ

8回日本独文学会関東支部研究発表会のお知らせ

下記の日程で第8回日本独文学会関東支部研究発表会を開催いたします。皆様のご参加を心よりお待ちしております。

日時:2017年11月11日(土) 14:00-17:15(13:30開場)

場所:慶應義塾大学日吉キャンパス第3校舎327番教室

 

プログラムと発表要旨のダウンロード:第8回日本独文学会関東支部研究発表プログラム

 

プログラム

14:00 開会の挨拶:支部長 境 一三

 

14:10-16:40                  口頭発表

 

14:10-14:45 発表1(司会:浅井 英樹、松鵜 功記)

山取 圭澄「『ラオコオン』批判に現れる詩的言語–何故、ヘルダーは『批評の森』にて匿名を貫くのか–」

 

14:50-15:25 発表2(司会:前田 佳一、須藤 勲)

石橋 奈智「エッセイ『夢の像としての舞台』にみられるホーフマンスタールのマッハおよびベルクソン受容」

15:25-15:40  休憩

15:40-16:15発表3(司会:松鵜 功記、浅井 英樹)

葛西 敬之「ドッペルゲンガーの恋―ローベルト・ヴァルザー『盗賊』と長編小説を書くということ」

16:20-16:55発表4(司会:前田 佳一、須藤 勲)

吉村 創「新学習指導要領に適したドイツ語授業案」

 

16:55-17:10         幹事会からの報告

17:10 閉会の挨拶

17:30-19:30 懇親会

 

開場中、上記のプログラムに加えて、書店・出版社等による書籍展示が行われます。

(ご連絡)

1.会場予約の関係上、すでに懇親会へのご出席をお決めの方は、eingang@jgg-kantou.orgまでメールをいただければ幸甚です。

2.当日、新規入会申し込みおよび会費(年会費500円)の納入ができます。

 

<日本独文学会関東支部>

(支部長)境 一三 (支部選出理事)浅井 英樹

(会計幹事)渡邊 徳明 (広報幹事)松鵜 功記 (庶務幹事)須藤 勲、前田 佳一

会場のご案内

慶應義塾大学 日吉キャンパス  第3校舎327番教室

<日吉キャンパス 地図>

 

交通アクセス

日吉駅(東急東横線、東急目黒線/横浜市営地下鉄グリーンライン)徒歩1分

※東急東横線の特急は日吉駅に停車しません。

住所

〒223-8521 神奈川県横浜市港北区日吉4-1-1

 

<慶應義塾大学日吉キャンパス交通案内 URL

https://www.keio.ac.jp/ja/maps/hiyoshi.html

発表要旨

発表1(文学)山取 圭澄 「『ラオコオン』批判に現れる詩的言語何故、ヘルダーは『批評の森』にて匿名を貫くのか

『批評の森』(Kritische Wälder, 1767-1769)は、匿名での刊行が当時から非難にさらされた。しかし、公然の秘密であるにもかかわらず、ヘルダーはあくまで自身が著者であると明かしていない。本発表では、ヘルダーが匿名にこだわる点に注目し、『第一批評の森』での独自の『ラオコオン』受容を読み解く。

レッシングは『ラオコオン』を「自身の読書から生まれたもの」と呼び、「雑然とした書き抜き帳」と明言している。ヘルダーも自身の『ラオコオン』批判を「森の中の道」に喩え、論理的な明確さを求めていない。彼の批評は、いわば『ラオコオン』の模倣と言える。目に留まったものが書き並べられた小径を辿ることで、読者は自ずと著者の見解を再構築する。読者に主体的な読みが求められる背景には、「詩は絵画の如く」という言葉を巡る両者の見解がある。レッシングは、この言葉を「想像力へ働きかけることによる詩の生き生きとした描写」と理解した。『ラオコオン』自体を「詩」、つまり「創作的対話」と捉えたヘルダーは、その模倣においても、著者と読者の「協働」を狙った。『ラオコオン』批判が匿名で書かれるのは、レッシング・著者・読者の三者を相互主観的な関係に置くための方策ではないか。他者の言葉に触れ、自身の見解が自然に形成される対話の場として、『批評の森』は書かれたのである。後に『言語起源論』で詳述されるヘルダーの詩的言語観が、既に『ラオコオン』の模倣という形で先取りされることを明らかにしたい。

 

発表2(文学)石橋 奈智 「エッセイ『夢の像としての舞台』にみられるホーフマンスタールのマッハおよびベルクソン受容」

『夢の像としての舞台』(1903)は、戯曲『エレクトラ』(1903)の上演に先立ち公表されたエッセイである。ホーフマンスタールは、マッハ『感覚の分析』(1886)とベルクソン『物質と記憶』(1896)において表明されている、夢、仮象、知覚、記憶などについての思考を独自の仕方で融合することでこのテクストを作り上げたと発表者は考えている。

ホーフマンスタールとマッハとの関係はこれまでも数多く指摘されてきたが、ベルクソンとの関係についてはほとんど研究が進んでいない。ドイツ語圏でのベルクソンの本格的な受容が始まったのは、1908年に『物質と記憶』の独語版が出版されてからであるが、ジンメルやグンドルフなど、ホーフマンスタールとも縁の深い一部の人々のもとでは、1900年頃にはすでに十分認知されていた。元フランス文学研究者であったホーフマンスタールが、1908年よりも早い時期からこの書を読んでいた可能性は十分にある。

さらに、このエッセイに現れる塔と牢獄のイメージは、『帰国者の手紙』(1907)や『塔』(1923-27)の原像としてもとらえられるため、重要である。また、このエッセイにおいて表明されている舞台の新しいあり方は、人間をその内部に閉じ込める、映画館などの現代的なカメラ・オブスキュラの原型としてもとらえられる。

発表3(文学)葛西 敬之 「ドッペルゲンガーの恋ローベルト・ヴァルザー『盗賊』と長編小説を書くということ」

スイスの作家ローベルト・ヴァルザー(1878-1956)は、数多くの散文小品の他に三作の長編小説を生前に発表しているが、ミクログラムと言われる極小文字で書かれた遺稿の中にも、長編小説と呼ばれ得るテクストが含まれている。本発表で扱うのはこの、1968年に解読・出版され『盗賊』と名付けられたテクストである。三作の長編小説がいずれも初期(1906年から1908年)に書かれていたこともあり、1925年に執筆されたと推測されるこのテクストは後期のヴァルザーの特徴が色濃く出ているものとして、これまでのヴァルザー研究において重要な位置を占めてきた。

本発表で論じられるのは、この『盗賊』の語り手と主人公である盗賊との関係について、すなわちこの「二人の登場人物」が同一人物として、いわば互いのドッペルゲンガーとして読まれ得るという点、及び長編小説を書くということがテクスト内でどのように問題化されているか、という点である。

これら二つの観点はどちらもすでに先行研究で扱われてきたものではあるが、本発表はこれらが、愛とその言語化という契機によって深く結びついていることを明らかにする。

 

発表4(ドイツ語教育)吉村 創 「新学習指導要領に適したドイツ語授業案」

平成34年度から実施予定である高等学校新学習指導要領によると、外国語教育において「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の三つの資質・能力の育成が目標とされる。また、それらの目標は「聞くこと」「読むこと」「話すこと(やり取り)」「話すこと(発表)」「書くこと」の五つの領域において示される(中央教育審議会2016)。この目標を果たす授業案として本発表では、ドイツ語母語話者をはじめとする聴衆に向けて口頭で学校紹介をし、質疑応答を行う授業計画を提案する。この授業では、語彙や表現を集めるためにモデルとなるドイツ語文章を「読み」、学校紹介文を「書き」、聴衆に向けて発表し(話す(発表))、質疑応答を行い(話す(やり取り)、聞く)、ルーブリック(国際文化フォーラム2013:68ff.)による評価を行う。この授業計画では新学習指導要領で示された五つの領域すべてを扱うことができ、また聴衆に配慮した発表や、発表者とは異なる文化背景をもつ聴衆の考え方を考慮した質疑応答をとおして、上記三つの資質・能力、とくに「学びに向かう力・人間性等」の資質を測り、外国語を使ってコミュニケーションを図ろうとする積極的態度や意欲を評価することができる。

参考文献:

国際文化フォーラム(2013):外国語学習のめやす.

中央教育審議会(2016):幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について.