ユネスコ無形文化遺産と謝肉祭

発表者
林 敬太
日時:
2018年11月24日
場所:
お茶の水女子大学

発表要旨:
本研究では,ドイツ語圏で開催されている謝肉祭について,国連機関であるユネスコが制定した無形文化遺産条約への登録活動が行われている現状を分析し,この現象がどのような意味を持っているのかを探る。 これまでドイツ語圏の謝肉祭について,中世に開催されたものについては演劇の一種として,或いは都市生活文化史の対象としてドイツ語圏でも日本でも研究が行われてきた。また,19世紀から20世紀の変遷を振り返る社会学的な研究も行われている。しかしながら,今現在の状況を分析した先行研究はいまだ希少である。 他方,ユネスコでは主に非ヨーロッパ圏の文化を保護するための議論が行われ,21世紀に入ってから無形文化遺産条約として結実した。その議論は実に30年以上に及び,「無形文化」という存在がどのようなものかという定義付けがユネスコによって行われた。 ドイツ語圏の謝肉祭は開催される地域やそれを越え広く国家や時代の影響を受け,変化しながらも一定の形を保ってきた。無形文化遺産への登録に向けた活動は近年の変化の中でも最も大きなものだと思われる。それはただ謝肉祭の側が一方的にユネスコでなされた議論の影響を受けるだけではなく,相互的なものであり,条約締結国全てが注目すべきものである。例えば,ドイツは既に謝肉祭や他の文化的活動の主体となる「市民団体」を無形文化遺産に登録している。このような市民団体の活動がドイツ語圏の無形文化にとって大きな役割を果たしていることがユネスコによって可視化されたと言える。ドイツ語圏の文化を知るために市民団体の実情を知ることが今後はより重要であると言えるだろう。