下記の日程で第15回日本独文学会関東支部研究発表会を開催いたします。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。
日時:2024年11月24日(日)14:00~
場所:早稲田大学早稲田キャンパス 11号館503教室
参加費:関東支部会員は無料、非会員は500円
プログラムと発表要旨のダウンロード:第15回日本独文学会関東支部研究発表会
プログラム
14:00〜14:05 開会の挨拶
14:10〜14:45 清水恒志
E. T. A. ホフマン『黄金の壺』についての一考察 wunderbarとwunderlichの交替を手掛かりに
14:50〜15:25 中村祐子
ギュンダーローデの短剣 『どこにも居場所はない』から『カッサンドラ』へ
15:25~15:40 休憩
15:40〜16:15 保阪靖人
ドイツ語における疑問詞の長距離移動について:移動の障壁(島)
16:20~16:55 林 明子・西出佳詩子
分析的な読みからテクスト産出者の意図を探るまで 専門分野につながる読みのストラテジー習得を目指して
17:00 閉会の挨拶
(ご連絡)
当日、新規入会申し込みおよび会費(年会費500円)の納入ができます。
<日本独文学会関東支部> (支部長) 若林 恵(支部選出理事)浅井 英樹
(庶務幹事)江口 大輔 前田 佳一(会計幹事)時田 伊津子
(広報幹事)杉山 有紀子
会場のご案内
早稲田大学早稲田キャンパス 11号館503教室
交通アクセス
JR 山手線 高田馬場駅から徒歩20分
西武鉄道 西武新宿線 高田馬場駅から徒歩20分
東京メトロ 東西線 早稲田駅から徒歩5分
東京メトロ副都心線 西早稲田駅から徒歩17分
住所
〒169-8050 新宿区西早稲田1-6-1
早稲田大学交通案内URL
https://www.waseda.jp/top/access/waseda-campus
発表要旨
発表1(文学)清水恒志
E. T. A. ホフマン『黄金の壺』についての一考察 wunderbarとwunderlichの交替を手掛かりに
本発表では『黄金の壺Der goldene Topf(1814)』を取り上げ、形容語「不可思議wunderbar(wundervoll)な」と「奇怪wunderlich(seltsam, sonderbar)な」を手掛かりとし、作品に内在する論理を明らかにすることを目標とする。
wunderbarは西洋の各時代の詩学でも議論の対象となる鍵語であり、特にロマン派ではノヴァーリスが想像力や夢、メルヒェンと関連づけ、ポエジーそのものと同一視している。
これを受けた「新時代のメルヒェン」たる『黄金の壺』にはwunderbarの語で形容される快いものや好ましい事物が多く現れるとともにwunderlichの語で説明される謎めいた存在や不気味なものもまたしばしば登場する。そのためこの二つの語は、火の精と魔女の戦いに象徴される作品世界内の対立に呼応しているかのように見える。しかし、この作品では幻想的世界と市民社会、動物と植物などあらゆる事物は時に混じりあい、時に相互に移行し変化する。こうしたアラベスク(Oestrle, 1991)やメタモルフォーゼ(Kremer, 1993)という不定形の原理のもとでは、この二つの形容語が修飾するものも対立の関係ではなく連続し相互に関連するものとなり、時には同じ出来事がwunderbarでありwunderlichであるという「矛盾」さえ生じる。結論を先んじれば、これらの語の交替にはホフマンのロマン主義の受容と同時にその批判と相対化という反省的な構成原理が表れていると解釈できる。
発表2(文学)中村祐子
ギュンダーローデの短剣 『どこにも居場所はない』から『カッサンドラ』へ
本発表は、クリスタ・ヴォルフの『どこにも居場所はない』(1979)と『カッサンドラ』(1983)における「短剣」に焦点を当て、女性への抑圧と抵抗についてのヴォルフの考えの変化を探る試みである。ギュンダーローデは常に短剣を携帯し、カッサンドラは持とうとしない。その違いがどこからくるのかを、この間に書かれたエッセイ「クライストの『ペンテジレーア』」(1982)を手がかりにして考察する。
この両作品でヴォルフは時代を移すことで女性問題の根本的課題を「社会主義の実現」という文脈から切り離して提示しようとした。そして『カッサンドラ』では、ヴォルフのギリシア悲劇の研究を踏まえて、フェミニズム的メッセージがより強くなったとみなされている(Kuhn; Opitz-Wiemers)。若くして死ぬ未完成な女性主人公の系譜の中で、ギュンダーローデの先にカッサンドラがいるとしたら(Hilzinger)、ペンテジレーアは単にロマン主義と古代ギリシアを結んでいるだけではない。
ギュンダーローデは、男性中心の文学界に挑む苦難の中、短剣を持つことで生殺与奪権が自らにあると考えた。その一方、カッサンドラは短剣を持つことを拒み、予知した運命から逃げないという決断をした。これは武器を行使する社会に入ることを拒んだとも言える。ヴォルフは、ペンテジレーアが「家父長的影響を逆照射した」世界で「自由」と「掟」を無にして自ら短剣で果てたと解釈した。それがギュンダーローデからカッサンドラへの道程となったのだと考えられる。
発表3(言語学)保阪靖人
ドイツ語における疑問詞の長距離移動について:移動の障壁(島)について
本発表では、ドイツ語のdass節からの疑問詞の長距離移動について論じる。その典型例は、Was glaubst du, dass Hans gekauft hat? である。動詞kaufen の目的語であるwas がdass節を超えて主文へ移動している。本発表ではこのような構文は英語やイタリア語などと比べるとかなり制約を受けることを述べる。英語のthat節や、イタリア語のche節に対して、ドイツ語のdass 節は移動の障壁となっており、この障壁を本発表ではRoss(1967)の用語から、島(Insel)と名付ける。そして、その障壁の強さを「島性」と名付け、「島性」について明らかにしたい。
日本語で「太郎は何を買ったと思いますか。」という文は自然な疑問文であり、もし島性がドイツ語にあるとすれば、この日本語に対応する表現をどうやって実現するかという問題がある。例えば、Was hat Hans gekauft, glaubst du?でもそれは十分実現されるかもしれない。また、挿入的にWas glaubst du hat Hans gekauft?としても可能かもしれない。しかしながら、ドイツ語は次のようにこの島性の問題を回避する構文を多く利用している:Was glaubst du, was Hans gekauft hat?
本発表では、この構文がかなり自然に使用されていることを述べるとともに、それがdass 文の島性と関わることを主張したい。
発表4(ドイツ語教育)林明子、西出佳詩子
分析的な読みからテクスト産出者の意図を探るまで -専門分野につながる読みのストラテジー
習得を目指して-
大学におけるドイツ語教育は、専門分野での運用に耐える学術ドイツ語への発展を見据えて行われるべき性格を持つ。本研究では、2年次以降の語学領域における「講読/読解」のあり方を、「専門分野につながる読みのストラテジーの習得」という側面から捉え直す。ここでは、読みのストラテジーを、学生が専門分野で自立的に運用できる「分析的な読み」に限定する。音声・語彙・形態・統語レベルの既習知識の活性化とともに、テクストレベルで新しい知識や分析力を身に付け、そこから得られる気づきを体験することによって、分析的な読みの習得を目指す。専攻におけるドイツ語との関わりが直接的か間接的かを問わず、文献やデータに自立的に取り組める力をつけてほしい。そこで、まず、テクスト言語学の知見に基づく教科書分析・課題教材の作成に取り組んだ。次に、それを用いた授業実践に臨み、学習者からフィードバックを得るという作業手順により、専門分野への発展の可能性を探った。一般的に「読み」は受動的な技能に分類されるが、テクスト受容者が自らの推測を検証しながら読み進める動的かつ能動的な活動でもある。ドイツのDaF/DaZ向けの言語学入門書でも扱われるテクスト言語学では、テクストはコミュニケーションのための出来事(ボウグランド・ドレスラー、1981)と定義される。本発表では、結束性に関わる指示、接続などに加え、引用やテクストの構造・展開にも注目し、テクスト全体を意識した分析的な読みを通してテクスト産出者の意図を読み取るまでの一連のプロセスを「読み」の活動ととらえ、論を展開する。