シュトルムの文学における自然科学・技術観 ――19世紀ドイツの技術に対する懐疑からの考察

発表者
山下拓郎
日時:
2025年12月20日
場所:
東京大学

発表要旨:

 本研究では19世紀後半のドイツ文学、とりわけテオドール・シュトルムの文学が内包する技術に対する思想が、現代の技術論に接近する可能性を示すことが目的である。19世紀後半のドイツ語圏の文学では、シュティフターのEin Gang durch die Katakombenなど、当時の革新的な自然科学(以下「科学」)や、それによって向上した技術の問題点と、そういった「科学」・技術を地盤とした社会の行く末を案じたエッセイがある。また文学作品では、ケラーのSinngedichtや、シュトルムのDer Schimmelreiterなど、「科学」や技術に傾倒した人物が登場する作品が見られるが、その多くでは、「科学」の不十分さが指摘されることや、「科学」や技術を重視する登場人物の悲劇的な結末が描かれている。このように当時の文学では、「科学」や技術が、批判的、あるいは「悲観的」に描かれていることが観取される。
 「悲観的」な描写について、19世紀後期のドイツ文学を俯瞰すると、〈理想〉から乖離した現実が「悲観的」に描かれていることが特徴であると分かる。このような「悲観的な態度」と、「三月革命」という政治的な〈理想〉の追求における失敗との関連は、磯崎(2020)をはじめ、論じられるところであるが、「科学」や技術に対する「悲観的」な描写には注目されてこなかったように思える。そこで本研究では、技術とそれがもたらす不幸を文学に描いたシュトルムを起点とし、当時の文学者達が、技術や「科学」の発展について、何を〈理想〉と定め、そういった〈理想〉と現実の間に、どのような乖離を見出したのかを、彼らの文学を読解しつつ考察し、彼らの問題意識が現代の技術論と結索されうる点を探る。