- 発表者
- 鈴木佑紀乃
- 日時:
- 2023年12月10日
- 場所:
- 早稲田大学
アルフレート・デーブリーン『ベルリン・アレクサンダー広場』における発話行為について
- 発表要旨:
デーブリーンの長編『ベルリン・アレクサンダー広場』は、1920年代のベルリンで暮らす主人公、ビーバーコプフの受難を描いた物語である。彼は刑務所から出所するとひとかどの人物として生きようとするも失敗し、都市群衆の中に埋没する。このような挑戦と挫折は彼の行う発話にも反映されている。彼は物語冒頭で、あるユダヤ人から、弁舌の巧みさで財を成したツァノーヴィッヒという人物とその息子についての物語を教えられる。このことがきっかけで彼は弁舌の巧みな人物に憧れ、自身もそうなろうと試みるが上手くいかない。ビーバーコプフは様々な不運に見舞われると絶望して、意識を失い生死の境をさまよう。そこで彼は冥界の死神に出会い、それまでの生き方を反省する。その後回復すると、彼は再びベルリンへ戻ってくるが、群衆に溶け込み、発話に消極的になっている。こうしたビーバーコプフによる発話の傾向と変化、そしてその意味づけは、先行研究ではほとんど注目されておらず、本作での言葉を用いた伝達行為に関する研究の多くは、モンタージュという物語の語りに関する技法に焦点を当てられている。
本発表は、作品の主人公ビーバーコプフによる発話行為の変容を、作品全体の構成の中で検討することを目的としている。彼の発話にみられる傾向や、物語冒頭でツァノーヴィッヒの物語が彼に与えた影響などについて論じ、彼の発話行為には大都市における構築(Aufbau)と崩壊(Zerfall)の対立が背景にあると考えられることを示す。