- 発表者
- 内田賢太郎
- 日時:
- 2023年12月10日
- 場所:
- 早稲田大学
ベルリンのユンガー 大都市体験と立体鏡的知覚をめぐって
- 発表要旨:
本発表ではエルンスト・ユンガーの大都市体験が、彼の独自の知覚論、立体鏡的知覚へ与えた影響を扱う。ユンガーは1927年にライプツィヒからベルリンへ生活の拠点を移す。大都市体験はこの頃の思索日記風のエッセー『冒険心 第一稿』に散発的に描かれているが、そこに共通して表れているのは、技術への恐怖と魅惑の入り混じった関心である。
ジェフリー・ハーフはこのアンビバレントな姿勢を、都市と戦争を同一視し、都市を賛美しつつ恐怖に浸り、価値も美も見出すゆえであり、反動的モダニズムの典型例と指摘する。
対してトーマス・キーリンガーは、ユンガーにおいて魅惑と恐怖が重なる点を分析しつつ、20年代のユンガーが取り組んでいた夢というモティーフと都市論の関連性から、戦争で体験した生の知覚が彼の都市論には変わらずに見られることを論じる。ノルベルト・シュタゥプはこの夢モティーフとの連関を更に掘り下げ、そこにカタストロフへの不安を指摘した上で、都市には麻痺の作用があること、ユンガーの知覚はその麻痺からの脱却を可能にしうることを論じている。
本発表はこの後者2人の論を引き継ぎ、まだ十分に論じられてきたとは言いがたいユンガーにおける都市空間の意味を、知覚論の観点から見ることを目的とする。ユンガーの都市論の分析を通じて、ユンガーが都市をカタストロフが常態化した悪夢的空間と捉えていること、都市の麻痺の作用からの脱却ではなくむしろ能動的な没入を目指し、それによって注意力の散漫と集中の二重の知覚を求めること、この知覚によって都市は生のアレゴリー的空間として表れることを論じてゆく。