- 発表者
- 幅野 民生
- 日時:
- 2022年12月11日
- 場所:
- オンライン
フリードリヒ・シュレーゲル『ギリシア文学の研究について』における初期ロマン派的批評の萌芽
- 発表要旨:
本発表では若きシュレーゲルの古代文学研究期の主著『ギリシア文学の研究について』(Über das Studium der griechischen Poesie,以下『研究論』と略記する)を初期ロマン派の批評の端緒として分析する。シュレーゲルはこのテクストにおいて,古代文学と近代文学を対比的に捉えることで,互いの特徴を浮き彫りにし,近代文学に方向性を指し示そうとした。そのため『研究論』は,全体のおよそ半分が近代文学についての叙述に割かれることになった。ここでシュレーゲルは,古代文学において完全な統一性を持った美が実現したことを認めつつも,それが「衝動」によってもたらされたものであったために凋落せざるを得なかったと指摘する。一方,近代文学は「断片的」であると同時に,「悟性」によって主導されるが故に「無限に進展する」ことができると主張する。彼によれば古代においては共同体のなかで遍く美が共有されていたため,作品の美を判断する批評家は必要とされていなかった。それに対し,美の規範を喪失した近代において,批評は作品の出来を判断するだけでなく,作品の全体性を捉え,それを完全なものへと導くために,不可欠な営為となるである。本発表では,古代文学との連関において特徴付けられた近代文学がどのように新たな批評を要請したのか考察する。古代研究をシュレーゲルの批評の出発点の一つと見做すことで,後の批評の実践を彼の思想的発展のなかで捉えることが可能となるのである。