- 発表者
- 小池 駿
- 日時:
- 2022年12月11日
- 場所:
- オンライン
更新されるべき過去 ― フリードリヒ・トーアベルク『ゴーレムの再来』における伝説性、神話性、歴史性の観点からの一考察
- 発表要旨:
本発表では、作家フリードリヒ・トーアベルク(Friedrich Torberg,1908-1979)の小説『ゴーレムの再来(Golems Wiederkehr) 』における伝説性、神話性、歴史性の三点について検証し、更新されるべきものとして「過去」が表象されていることを検討してゆく。
「タルムード」では、神が大地からアダムを生み出す前の胎児が、泥人形となりカバラの呪文によって動き出したとされている。これは後にゴーレムとして伝説化され、とりわけ20世紀のユダヤ的・カバラ的民話伝説における救済への道を示す象徴的なイメージを有した伝説として、例えばG・マイリンクやE・キッシュなどにより描かれた。G・ショーレムは自身のゴーレム研究でこの流れを指摘しているが、現代的な-戦後における各作品の-解釈には言及をしていない。無論ここにはトーアベルクによって新たに創造されたゴーレム伝説も含まれている。つまり、トーアベルクによってショーレム論が「更新」されただけでなく、トーアベルクの新たなゴーレム伝説そのものにも-作中で明示的に言及されているように-「更新されるべき過去」があると認められる。
なおトーアベルクについての論考は戦後オーストリア-とりわけウィーン-における同時期の作家のそれと比較しても、国内ではそう多くないのが現状だ。本発表では同時期におけるトーアベルクの立ち位置を示す試論としても機能させてゆきたい。