イルゼ・アイヒンガー『贈られた助言』における「錆」の主題

発表者
日名 淳裕
日時:
2020年12月13日
場所:
オンライン

発表要旨:

その散文作品が広く知られているイルゼ・アイヒンガー(Ilse Aichinger 1921-2016)は,自らの詩作品にたいする深い関心について述べてきた。主として1950年代に様々な雑誌に発表された散文詩は2001年にSimone Fässlerによって『クルツシュルッセ. ウィーン(Kurzschlüsse. Wien)』として一冊にまとめられた。一方1950年代後半以降に長い時間をかけて発表された詩をまとめたものが唯一の詩集とされる『贈られた助言(Verschenkter Rat)』(1978)である。 

 

アイヒンガーの詩作品は散文作品に比べると研究対象として論じられることが少ないままである。概観すると,散文詩に表現されたウィーンの地誌を読み解くもの,夫ギュンター・アイヒとの関連から創作過程を分析するもの,戦時下の体験とその記憶を詩から読み解くもの,アイヒンガーが好む言葉を手がかりに詩を分析するもの,詩作品を生起させている言語の構造に着目しアイヒンガーの詩全体をテクスト生成的に論じたものがある。本発表は『贈られた助言』に収録された複数の詩の中で用いられている「錆びるrosten」という動詞に注目する。この語が詩作品の結束構造をどのように担っているのかを音韻,形象の両面から考察する。