- 発表者
- 中村祐子
- 日時:
- 2024年11月24日
- 場所:
- 早稲田大学
ギュンダーローデの短剣 『どこにも居場所はない』から『カッサンドラ』へ
- 発表要旨:
本発表は、クリスタ・ヴォルフの『どこにも居場所はない』(1979)と『カッサンドラ』(1983)における「短剣」に焦点を当て、女性への抑圧と抵抗についてのヴォルフの考えの変化を探る試みである。ギュンダーローデは常に短剣を携帯し、カッサンドラは持とうとしない。その違いがどこからくるのかを、この間に書かれたエッセイ「クライストの『ペンテジレーア』」(1982)を手がかりにして考察する。
この両作品でヴォルフは時代を移すことで女性問題の根本的課題を「社会主義の実現」という文脈から切り離して提示しようとした。そして『カッサンドラ』では、ヴォルフのギリシア悲劇の研究を踏まえて、フェミニズム的メッセージがより強くなったとみなされている(Kuhn; Opitz-Wiemers)。若くして死ぬ未完成な女性主人公の系譜の中で、ギュンダーローデの先にカッサンドラがいるとしたら(Hilzinger)、ペンテジレーアは単にロマン主義と古代ギリシアを結んでいるだけではない。
ギュンダーローデは、男性中心の文学界に挑む苦難の中、短剣を持つことで生殺与奪権が自らにあると考えた。その一方、カッサンドラは短剣を持つことを拒み、予知した運命から逃げないという決断をした。これは武器を行使する社会に入ることを拒んだとも言える。ヴォルフは、ペンテジレーアが「家父長的影響を逆照射した」世界で「自由」と「掟」を無にして自ら短剣で果てたと解釈した。それがギュンダーローデからカッサンドラへの道程となったのだと考えられる。