心身一元論から「原-自我」へ ――1920年代におけるデーブリーンの自然哲学

発表者
相馬尚之
日時:
2021年12月12日
場所:
オンライン

発表要旨:

本発表は、ドイツ人作家アルフレート・デーブリーン(Alfred Döblin 1878-1957)の1920年代の自然哲学について、当時の一元論思想との関係から論じる。デーブリーンは文学的評価が先行しているが、近年では彼の精神科医としての経歴や自然哲学、その小説との関係も注目されている。

本発表では、まずデーブリーンのエッセー「自然とその魂」(„Die Natur und ihre Seelen“ 1922)を取り上げ、その万物の魂(Allbeseeltheit)の構想について同時代の生物学者エルンスト・ヘッケル(Ernst Haeckel 1834-1919)の一元論的世界観との相似から論じる。だがこれは自然科学からの逸脱に留まらない。科学との調停を目指す一元論思想は19世紀後半に「心的素材理論(Mind-Stuff Theory)」を発展させており、微細な原子にも魂が宿るとする主張は、アメリカの心理学者ウィリアム・ジェイムズ(William James 1842-1910)が論じたように、進化論の時代における一元論の不可避的要請であった。

 

しかしデーブリーンは、『自然を超える自我』(Das Ich über der Natur, 1927)において自我の分類のみならず「原-自我(Ur-Ich)」の導入により、世界内の個体の再評価を試みる。精神物理学の影響を残すデーブリーンの折衷的自然哲学からは、心身一元論の葛藤――精神の物質的還元と物質自体の精神化――が明らかになるのだ。