- 発表者
- 伊藤港
- 日時:
- 2021年12月12日
- 場所:
- オンライン
Absentiv(不在構文)の用法について
- 発表要旨:
本発表では、Absentiv(不在構文)が背景描写や様子を表現するフランス語の半過去形と似ている点を明らかにし、ドイツ語にはないとされている新たな時制である未完了相を形成している可能性を検証する。Absentiv (不在構文) とは、以下の例の通りである。
(例) Er war einkaufen. 彼は買い物に行っていた。
ドイツ語のAbsentiv (不在構文) とは、 (sein + 不定詞) の形で作られるものであり、de Groot (2000) で初めて説明がなされている。この構文は、主語の不在を意味するものあり、日本語で「○○をしに行っている/ いた」と訳すことができ、進行形的な表現だと考えられる。だが、日本にあるほとんどの文法書や教科書に記載されていないのである。また、先行研究ではVendler (1967) の動詞分類に従って、Absentivを構成する動詞の種類分けのみが行われており、コンテクスト、アスペクト、分離動詞、動詞の目的語の冠詞などについて十分に考察されていない。しかし、マンハイムのドイツ語研究 (Institut für Deutsche Sprache, Mannheim; IDS) のCOSMASⅡ (検索システム) でコーパスを検索し分析した結果、先行研究に挙げられていなかった Absentiv に使われる動詞や接続法2式の形もいくつか発見することができた。またコンテクストに注目すると、文中に現れるAbsentiv は「主語が話の中心地にいない」というVogel (2007) などで述べられていた元々の不在の意味だけではなく、補足的情報、背景部の記述をする機能も持ち合わせていると考えられる例文がいくつもあった。そのため、Absentiv がドイツ語の今までになかった時制である未完了を表現する構文である可能性があり、それがフランス語の半過去形の表現に類似している。フランス語の半過去形は、過去のある時点での行為、状態をまだ完了していない進行中のものとして表現し、継続、習慣、反復、描写などの多彩な用法を持っているものである。