第8回日本独文学会関東支部研究発表会のお知らせ
下記の日程で第8回日本独文学会関東支部研究発表会を開催いたします。皆様のご参加を心よりお待ちしております。
日時:2017年11月11日(土) 14:00-17:15(13:30開場)
場所:慶應義塾大学日吉キャンパス第3校舎327番教室
プログラムと発表要旨のダウンロード:第8回日本独文学会関東支部研究発表プログラム
プログラム
14:00 開会の挨拶:支部長 境 一三
14:10-16:40 口頭発表
14:10-14:45 発表1(司会:浅井 英樹、松鵜 功記)
山取 圭澄「『ラオコオン』批判に現れる詩的言語–何故、ヘルダーは『批評の森』にて匿名を貫くのか–」
14:50-15:25 発表2(司会:前田 佳一、須藤 勲)
石橋 奈智「エッセイ『夢の像としての舞台』にみられるホーフマンスタールのマッハおよびベルクソン受容」
15:25-15:40 休憩
15:40-16:15発表3(司会:松鵜 功記、浅井 英樹)
葛西 敬之「ドッペルゲンガーの恋―ローベルト・ヴァルザー『盗賊』と長編小説を書くということ」
16:20-16:55発表4(司会:前田 佳一、須藤 勲)
吉村 創「新学習指導要領に適したドイツ語授業案」
16:55-17:10 幹事会からの報告
17:10 閉会の挨拶
17:30-19:30 懇親会
開場中、上記のプログラムに加えて、書店・出版社等による書籍展示が行われます。
(ご連絡)
1.会場予約の関係上、すでに懇親会へのご出席をお決めの方は、eingang@jgg-kantou.orgまでメールをいただければ幸甚です。
2.当日、新規入会申し込みおよび会費(年会費500円)の納入ができます。
<日本独文学会関東支部>
(支部長)境 一三 (支部選出理事)浅井 英樹
(会計幹事)渡邊 徳明 (広報幹事)松鵜 功記 (庶務幹事)須藤 勲、前田 佳一
会場のご案内
慶應義塾大学 日吉キャンパス 第3校舎327番教室
<日吉キャンパス 地図>
交通アクセス
日吉駅(東急東横線、東急目黒線/横浜市営地下鉄グリーンライン)徒歩1分
※東急東横線の特急は日吉駅に停車しません。
住所
〒223-8521 神奈川県横浜市港北区日吉4-1-1
<慶應義塾大学日吉キャンパス交通案内 URL>
https://www.keio.ac.jp/ja/maps/hiyoshi.html
発表要旨
発表1(文学)山取 圭澄 「『ラオコオン』批判に現れる詩的言語–何故、ヘルダーは『批評の森』にて匿名を貫くのか–」
『批評の森』(Kritische Wälder, 1767-1769)は、匿名での刊行が当時から非難にさらされた。しかし、公然の秘密であるにもかかわらず、ヘルダーはあくまで自身が著者であると明かしていない。本発表では、ヘルダーが匿名にこだわる点に注目し、『第一批評の森』での独自の『ラオコオン』受容を読み解く。
レッシングは『ラオコオン』を「自身の読書から生まれたもの」と呼び、「雑然とした書き抜き帳」と明言している。ヘルダーも自身の『ラオコオン』批判を「森の中の道」に喩え、論理的な明確さを求めていない。彼の批評は、いわば『ラオコオン』の模倣と言える。目に留まったものが書き並べられた小径を辿ることで、読者は自ずと著者の見解を再構築する。読者に主体的な読みが求められる背景には、「詩は絵画の如く」という言葉を巡る両者の見解がある。レッシングは、この言葉を「想像力へ働きかけることによる詩の生き生きとした描写」と理解した。『ラオコオン』自体を「詩」、つまり「創作的対話」と捉えたヘルダーは、その模倣においても、著者と読者の「協働」を狙った。『ラオコオン』批判が匿名で書かれるのは、レッシング・著者・読者の三者を相互主観的な関係に置くための方策ではないか。他者の言葉に触れ、自身の見解が自然に形成される対話の場として、『批評の森』は書かれたのである。後に『言語起源論』で詳述されるヘルダーの詩的言語観が、既に『ラオコオン』の模倣という形で先取りされることを明らかにしたい。
発表2(文学)石橋 奈智 「エッセイ『夢の像としての舞台』にみられるホーフマンスタールのマッハおよびベルクソン受容」
『夢の像としての舞台』(1903)は、戯曲『エレクトラ』(1903)の上演に先立ち公表されたエッセイである。ホーフマンスタールは、マッハ『感覚の分析』(1886)とベルクソン『物質と記憶』(1896)において表明されている、夢、仮象、知覚、記憶などについての思考を独自の仕方で融合することでこのテクストを作り上げたと発表者は考えている。
ホーフマンスタールとマッハとの関係はこれまでも数多く指摘されてきたが、ベルクソンとの関係についてはほとんど研究が進んでいない。ドイツ語圏でのベルクソンの本格的な受容が始まったのは、1908年に『物質と記憶』の独語版が出版されてからであるが、ジンメルやグンドルフなど、ホーフマンスタールとも縁の深い一部の人々のもとでは、1900年頃にはすでに十分認知されていた。元フランス文学研究者であったホーフマンスタールが、1908年よりも早い時期からこの書を読んでいた可能性は十分にある。
さらに、このエッセイに現れる塔と牢獄のイメージは、『帰国者の手紙』(1907)や『塔』(1923-27)の原像としてもとらえられるため、重要である。また、このエッセイにおいて表明されている舞台の新しいあり方は、人間をその内部に閉じ込める、映画館などの現代的なカメラ・オブスキュラの原型としてもとらえられる。
発表3(文学)葛西 敬之 「ドッペルゲンガーの恋―ローベルト・ヴァルザー『盗賊』と長編小説を書くということ」
スイスの作家ローベルト・ヴァルザー(1878-1956)は、数多くの散文小品の他に三作の長編小説を生前に発表しているが、ミクログラムと言われる極小文字で書かれた遺稿の中にも、長編小説と呼ばれ得るテクストが含まれている。本発表で扱うのはこの、1968年に解読・出版され『盗賊』と名付けられたテクストである。三作の長編小説がいずれも初期(1906年から1908年)に書かれていたこともあり、1925年に執筆されたと推測されるこのテクストは後期のヴァルザーの特徴が色濃く出ているものとして、これまでのヴァルザー研究において重要な位置を占めてきた。
本発表で論じられるのは、この『盗賊』の語り手と主人公である盗賊との関係について、すなわちこの「二人の登場人物」が同一人物として、いわば互いのドッペルゲンガーとして読まれ得るという点、及び長編小説を書くということがテクスト内でどのように問題化されているか、という点である。
これら二つの観点はどちらもすでに先行研究で扱われてきたものではあるが、本発表はこれらが、愛とその言語化という契機によって深く結びついていることを明らかにする。
発表4(ドイツ語教育)吉村 創 「新学習指導要領に適したドイツ語授業案」
平成34年度から実施予定である高等学校新学習指導要領によると、外国語教育において「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の三つの資質・能力の育成が目標とされる。また、それらの目標は「聞くこと」「読むこと」「話すこと(やり取り)」「話すこと(発表)」「書くこと」の五つの領域において示される(中央教育審議会2016)。この目標を果たす授業案として本発表では、ドイツ語母語話者をはじめとする聴衆に向けて口頭で学校紹介をし、質疑応答を行う授業計画を提案する。この授業では、語彙や表現を集めるためにモデルとなるドイツ語文章を「読み」、学校紹介文を「書き」、聴衆に向けて発表し(話す(発表))、質疑応答を行い(話す(やり取り)、聞く)、ルーブリック(国際文化フォーラム2013:68ff.)による評価を行う。この授業計画では新学習指導要領で示された五つの領域すべてを扱うことができ、また聴衆に配慮した発表や、発表者とは異なる文化背景をもつ聴衆の考え方を考慮した質疑応答をとおして、上記三つの資質・能力、とくに「学びに向かう力・人間性等」の資質を測り、外国語を使ってコミュニケーションを図ろうとする積極的態度や意欲を評価することができる。
参考文献:
国際文化フォーラム(2013):外国語学習のめやす.
中央教育審議会(2016):幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について.