第10回日本独文学会関東支部研究発表会のご案内

 

下記の日程で第10回日本独文学会関東支部研究発表会を開催いたします。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。

日時:2019年11月24日(日)14:00-16:50(13:30開場)

場所:成城大学3号館1階312教室

参加費:関東支部会員は無料、非会員は500円

プログラムと発表要旨のダウンロード: 2019関東支部研究発表会.pdf

 

プログラム

14:00〜14:05 開会の挨拶:支部長:今村武

14:05〜14:40 中村大介
対峙するふたりの自然研究者―E.T.A. ホフマン『ハイマトカレ』について―

14:45〜15:20 菅谷優
19世紀パリの言説 『パサージュ』読解にむけて

15:20~15:35 休憩

15:35〜16:10 積田活樹
飛んでいるのか、漂っているのか―インゲボルク・バッハマンの飛行機の表象

16:15〜16:50 林敬太
無形文化遺産条約に対するドイツ語圏の動向

16:50 閉会の挨拶

17:00〜 懇親会   ※懇親会の開始時間が変更になりました。

開場中、上記のプログラムに加えて、書店・出版社等による書籍展示が行われます。

 

(ご連絡)

1.会場予約の関係上、すでに懇親会へのご出席をお決めの方は、eingang@jgg-kantou.orgまでメールをいただければ幸甚です。

2.当日、新規入会申し込みおよび会費(年会費500円)の納入ができます。

 

<日本独文学会関東支部>
(支部長)今村武 (支部選出理事)前田佳一
(会計幹事)山本潤 (広報幹事)桂元嗣 (庶務幹事)日名淳裕

 

会場のご案内
成城大学3号館1階312教室(3号館は正門から入って左の建物)

交通アクセス
小田急線成城学園前駅から徒歩4分 

住所
〒157-8511 東京都世田谷区 成城6-1-20

成城大学交通案内URL
http://www.seijo.ac.jp/access/

※小田急線の快速急行は成城学園前駅に停車いたしません。急行をご利用ください。

 

 

発表要旨

 

発表1(文学)中村大介

対峙するふたりの自然研究者-E.T.A. ホフマン『ハイマトカレ』についてー

 E.T.A. ホフマンは、ハワイを舞台とした『ハイマトカレ』という書簡体の物語を残した。親友同士であったメンジースとブロートンという自然研究者ふたりがオアフ島で虱を巡って決闘に及び、両者の死で幕を閉じる。

これまでの研究においてはこの作品は学問もしくは研究者への批判・諷刺として読まれてきた。この作品については近年ポストコロニアリズムの文脈から解釈する研究も出ているが、それでもこの作品の学問・研究者への批判・諷刺という側面は見逃されてはならない。メンジースは昆虫の研究者、ブロートンは植物・動物の研究者と、ふたりの研究分野の違いがあるにも関わらず、両者の描き分けについては先行研究で十分に論じられているとはいえない。文学や芸術における学者諷刺を論じたコジェニーナによれば昆虫を研究する者は諷刺の格好の対象となっており、そうした作品を書いたものとして、ドイツ語圏ではボードマー/ブライティンガーの例があげられる。『ハイマトカレ』の昆虫学者に対する戯画的な描写は明らかにこうした流れを汲んでいる。

オアフ島探検隊への参加を許されながら孤独を抱える昆虫学者メンジースと、隊の正式メンバーとして自分の役割を果たそうとするブロートンとのあいだには差異が見られ、研究者として一括りにして論じてしまうのは適切ではない。本発表では、『ハイマトカレ』はそれまでにあった昆虫学者諷刺の流れを汲み、さらに18世紀ごろからの博物学の流行を背景としながら、孤独な研究者と組織の一員として活動する研究者との対峙の様相を描いた物語であることを示す。

 

発表2(文学)菅谷優

19世紀パリの言説 『パサージュ』読解にむけて

W・ベンヤミン『パサージュ』の読解を目指しての博士論文の執筆、過程は大きく三つに分けられる。:1.都市の交通を避けて遊歩が可能な具体的空間としてのパサージュが意義を持つに至る19世紀中庸までのパリの状況描出 2.パサージュおよび郊外に至る場末通りを後にし、雑踏と交通が満ちる市街地・街路における遊歩の術を身に着けた「現代的遊歩者」の記述(モデル:ボードレール)3.遊歩の技術を内化することで成立した都市生活の主体、そして技術的に招来される「集合」によるこの遊歩者的主体性の断続的な中断と発散の可能性の記述、サイレント期の映画受容をモデルとして。なかでも今回は第一第二過程に焦点を絞って概要を述べたい。『複製芸術論』において提出される拡散的注意力(「確信を剥ぐ…」)、このメカニズムを『パサージュ』の読解において作動させる可能性の呈示を博士論文は目指すことになるが、今回はその前提状況として、集中の原理が伝統的経験の儀式性とはともに死なず、いかに希薄化しつつ都市交通・生活における主体性(「商品への感情移入…」)を構成するに至ったか、を浮き彫りにする。

 

発表3(文学)積田活樹

飛んでいるのか、漂っているのかーインゲボルク・バッハマンの飛行機の表象

 本発表はインゲボルク・バッハマンの飛行機の表象について論じる。しばしば彼女の作品には飛行機のモチーフが様々なかたちで登場する。しかし先行研究で飛行機表象が注目されたことはほとんどなかった。飛行機の発明と普及によって、人間の知覚と社会は大きく変化した。文学が飛行機をどう描いてきたかという主題は研究に値する。 そこで彼女の初期詩作品(1944-1953)とエッセイ『密航者たち』(1955)に登場する飛行機モチーフの分析を試みる。

彼女の最初期の詩には飛行機こそ登場しないものの、飛行のモチーフが頻出する。ハンス・ヘラーの研究(1987)によれば、初期詩作品は作者自身の戦争経験と密に結びついており、それは飛行モチーフが登場する作品にも当てはまる。飛行機を主題とした詩「夜間飛行」(1953)も例外ではなく、戦争のトラウマ的記憶と結びつけて解釈できる。

『密航者たち』は作者自身の飛行機体験を主題化したエッセイである。「夜間飛行」と同様、この作品でも飛行機の表象は暴力と結びついている。そうした飛行機に対する批判的観点は、マルティン・ハイデガーがブレーメン講演(1949)で展開した飛行機批判と部分的に通底する。 一見、このエッセイは一貫して飛行機を批判しているように思える。しかし作中の乗客の視覚の描写に着目すれば、バッハマンの中心的トポスである「越境」が飛行機によって実現していると解釈できるだろう。彼女の飛行機表象は単なる近代技術批判ではなく、その克服も示唆しているのではないか。

 

発表4(文化)林敬太

無形文化遺産条約に対するドイツ語圏の動向

 本発表は前年度に行われた発表である「無形文化遺産と謝肉祭」に続くもので,ユネスコが制定した無形文化遺産条約に対するドイツ語圏の活動を通じて,ユネスコで行われている「文化」概念に対する議論を分析する。

ユネスコではヨーロッパ圏の価値観に則った世界遺産条約の制定と並行して,非ヨーロッパ圏の文化を保護するための議論が行われ,21世紀に入ってから無形文化遺産条約として結実した。その議論は実に30年以上に及び,「無形文化」という存在がどのようなものかという定義付けがユネスコによって行われた。条約制定までの経緯や条約が持つ理念については,これまでに国連職員やジャーナリストなどによって概要が報告され,前年度の発表でも取り上げられた。しかしながら,加盟国の提案によって条約の内容が変化する,という無形文化遺産条約の性質上,条約の内容は常に更新される可能性があるため,条約に対する研究は継続され続けるべきだと言える。

無形文化遺産への登録に向けた加盟国の活動は,ただ加盟国の側が一方的にユネスコの設定した査定基準に従うものではなく,加盟国が登録を望む候補を立てることを通じて条約に働きかけることができる相互的なものであり,条約締結国全てが注目すべきものである。例えば,ドイツは謝肉祭といった祝祭や他の様々な文化的活動の主体となる「協同組合」を自国では初めての無形文化遺産として登録し,それは日本の民俗学者などに驚きをもって迎えられた。このような市民団体の活動がドイツ語圏の無形文化にとって大きな役割を果たしていることが,ユネスコによって可視化されたと言える。ドイツ語圏の文化を知るために,その背景となる市民の活動を知ることが今後はより重要であると言えるだろう。