発表者
林敬太
日時:
2019年11月24日
場所:
成城大学

発表要旨:
本発表は前年度に行われた発表である「無形文化遺産と謝肉祭」に続くもので,ユネスコが制定した無形文化遺産条約に対するドイツ語圏の活動を通じて,ユネスコで行われている「文化」概念に対する議論を分析する。 ユネスコではヨーロッパ圏の価値観に則った世界遺産条約の制定と並行して,非ヨーロッパ圏の文化を保護するための議論が行われ,21世紀に入ってから無形文化遺産条約として結実した。その議論は実に30年以上に及び,「無形文化」という存在がどのようなものかという定義付けがユネスコによって行われた。条約制定までの経緯や条約が持つ理念については,これまでに国連職員やジャーナリストなどによって概要が報告され,前年度の発表でも取り上げられた。しかしながら,加盟国の提案によって条約の内容が変化する,という無形文化遺産条約の性質上,条約の内容は常に更新される可能性があるため,条約に対する研究は継続され続けるべきだと言える。 無形文化遺産への登録に向けた加盟国の活動は,ただ加盟国の側が一方的にユネスコの設定した査定基準に従うものではなく,加盟国が登録を望む候補を立てることを通じて条約に働きかけることができる相互的なものであり,条約締結国全てが注目すべきものである。例えば,ドイツは謝肉祭といった祝祭や他の様々な文化的活動の主体となる「協同組合」を自国では初めての無形文化遺産として登録し,それは日本の民俗学者などに驚きをもって迎えられた。このような市民団体の活動がドイツ語圏の無形文化にとって大きな役割を果たしていることが,ユネスコによって可視化されたと言える。ドイツ語圏の文化を知るために,その背景となる市民の活動を知ることが今後はより重要であると言えるだろう。