エッセイ『夢の像としての舞台』にみられる
ホーフマンスタールのマッハおよびベルクソン受容

発表者
石橋 奈智
日時:
2017年11月11日
場所:
慶應義塾大学日吉キャンパス

発表要旨:
 『夢の像としての舞台』(1903)は、戯曲『エレクトラ』(1903)の上演に先立ち公表されたエッセイである。ホーフマンスタールは、マッハ『感覚の分析』(1886)とベルクソン『物質と記憶』(1896)において表明されている、夢、仮象、知覚、記憶などについての思考を独自の仕方で融合することでこのテクストを作り上げたと発表者は考えている。
 ホーフマンスタールとマッハとの関係はこれまでも数多く指摘されてきたが、ベルクソンとの関係についてはほとんど研究が進んでいない。ドイツ語圏でのベルクソンの本格的な受容が始まったのは、1908年に『物質と記憶』の独語版が出版されてからであるが、ジンメルやグンドルフなど、ホーフマンスタールとも縁の深い一部の人々のもとでは、1900年頃にはすでに十分認知されていた。元フランス文学研究者であったホーフマンスタールが、1908年よりも早い時期からこの書を読んでいた可能性は十分にある。
 さらに、このエッセイに現れる塔と牢獄のイメージは、『帰国者の手紙』(1907)や『塔』(1923-27)の原像としてもとらえられるため、重要である。また、このエッセイにおいて表明されている舞台の新しいあり方は、人間をその内部に閉じ込める、映画館などの現代的なカメラ・オブスキュラの原型としてもとらえられる。