例会の報告要旨集(第87回~第109回)

新倉真矢子・正木晶子(上智大学)--第109回例会~~~~~

ドイツ語発音指導への提案(新倉真矢子・正木晶子)(pdf)

 

谷澤優子(日本大学)--第107回例会~~~~~
2007年度ドイツ派遣教員研修参加報告(国際経済コミュニケーションにおけるドイツ語)
1.ゼミナール概要
2007年7月29日から8月11日まで、デュッセルドルフのゲーテ・インスティテュートで行なわれたこのゼミナールには、17カ国(アルジェリア、カザフスタン、ロシア、アルメニア、チリ、スペイン、インドネシア、フィンランド、アメリカ、ハンガリー、ポーランド、チェコ、ポルトガル、ブラジル、日本、インド、韓国)から24名の参加があった(うち日本人は私一名のみ。大学教員とゲーテの教師がほぼ半々。経済ドイツ語の授業を実際に担当している教員は約半数。)。
テーマは国際経済コミュニケーションにおけるドイツ語(いわゆる『ビジネスドイツ語』)教授法である。プログラムは、教材の紹介と分析および作成、コースプラニング、授業計画、授業方法、授業内容の詳細などであった。また、研修で得られた理論的知識を実際のビジネス活動と結びつけるために、現地にあるさまざまな企業や経済機関を訪問する機会も豊富にあった。さらに、コンピューターの授業への利用法、またドイツ経済全般に関する専門家の講演もあった。

2.教材について
最初に、「良い教科書」について意見交換をした。出版社を訪問する機会もあり、ゲーテの図書館でも多くの教科書を目にすることができたので、それらの長所と短所、また実際に使った教師の感想をまとめ、どのような授業が行なえるか検討しあった。
最近ではインターネットを利用した授業の可能性が広がっているということで、いくつかの経済ドイツ語関係のURLの紹介があった。具体的な利用法としては、インターネットを用いた、一般的或いは前もって与えられた課題解決のための情報収集、経済活動のシュミレーション、インターネットを通じたビジネスドイツ語講座への参加と問題練習などがある。

3.授業方法
授業方法の一例として、既に前年のゲーテ・インスティテュート東京でのSommerseminarでも紹介されたStationenlernenを体験した。また、Szenariotechnik、つまり実際の言語活動(電話での会話、約束をとりつける、注文をする、クレームをつける、など)に基づく言語技能の教授法の紹介があり、Szenariotechnikに基づいたコース・プランニング、授業計画をグループに分かれ作成し、発表しあった。これ以外にも、グループでの活動、プレゼンテーションの機会は全体のゼミナールを通して多かった。

4.経済活動に必要な異文化間コミュニケーション理解
外国語を用いた経済活動では、言語の問題だけでなく、異文化の体験が想定される。したがって経済ドイツ語の授業においても、ドイツ語圏でのビジネスの慣例、ドイツ人の一般的な考え方や行動様式について触れるべきである。参加者の意見交換、この分野でのビデオ・DVD教材の紹介があった。

5.まとめ - 「一般ドイツ語」と「職業ドイツ語」
大学等で一般に教えられている「一般ドイツ語」と、特定の職業分野で用いられる場面・言語材料を中心とする「職業ドイツ語」は、別の分野として切り離して考えるのではなく、前者の延長上に後者があると考えるべきである。したがって、教師も特定の職業分野の専門家である必要はなく、また専門的職業に特化した内容というよりは、職業活動全般に必要とされるドイツ語能力の習得が目的となる。例えば語彙学習においても、専門用語の習得を目指すのではなく、むしろ造語法に習熟させることを中心とするべきである。

日本の大学においても、将来の職業活動において有益と思われるドイツ語能力、例えば電話での会話やメールの書き方などが授業に導入されることは望ましいのではないか。また、そのような授業は学生の興味や目的意識、学習意欲を高めるのではないかと思われる。

 

磯崎康太郎(明治学院大学)--第106回例会~~~~~
「外国語の学習,教授,評価のためのヨーロッパ共通参照枠」(CEF)を参考にした自律的学習の展開
CEFのBレベル(中級)は,「自立した言語使用者」の段階と称されている.話し言葉を中心にして,ドイツ語圏で自立した日常生活を営み,最終的に母語話者に溶け込む学習者像が想定されている.この学習者像には,たんに独立したという意味の「自立」のみならず,学習を自ら律するという「自律」の観点も含まれていると考えられる.
自律的学習(Lernerautonomie)の領域で,自律的学習者の特徴として次のように述べられている.「多くの異なる認知的方略を投じることができる.自らの学習行為を目標付けたうえで,計画し,操る.すでに有している知識と新しい知識との繋がりを作り出す.自らの理解の過程を観察する.自らの学習行為,思考過程を反省し,そこから推論を導き出し,知識を再構成したり,新たに構築することができる.すでに有する知識を柔軟に用いて,課題の解決策を検討する.」(Neuner-Anfindsen, Stefanie: Fremdsprachenlernen und Lernerautonomie: Sprachenlernbewusstsein, Lernprozessorganisation zum Wortschatzlernen in Deutsch als Fremdsprache. Baltmannsweiler 2005, S. 41.)学習の自己決定,自己監視,自己評価の際には,とりわけ学習方略をもってこれを実践することが重要である.
CEFの方略に関する能力記述文を見れば,産出的言語活動の測定尺度として,「計画」,「補償」,「モニタリングと修正」の三つが挙げられている.「計画」に関しては,A2レベルから能力記述文が記されているが,A2は計画の前提となる,自分のレパートリーへの意識にとどまるもので,伝達の方法を考えることができるのはB1のレベルであると述べられている.「補償」に関しても,A2が出発点となるが,このレベルはゼスチャー等メタ言語の行為にとどまるのに対して,B1から言語による修正という行為が展開される.聞き手に修正を求めたり,母語を外国語化して使ってみる能力である.また「モニタリングと修正」に関しては,Aレベルではまったく能力記述文がなく,B1レベルから「コミュニケーションが失敗したときは,別の方略を用いて出直すことができる」等の能力が記されている.そのため学習方略の面で,Aレベルは準備・訓練段階にとどまり,Bレベルに入ってから実際的な能力になると考えられる.
CEFがコミュニケーション活動の方略として挙げている内容と,自律的学習者の特徴として挙げられている能力とは類似している.計画,既存知識の活用,モニタリング,自己修正等を,学習者が主体的に行うことが学習の自律性を促し,「教師,教材,学習機関への依存からの独立」,ひいてはCEFが強調する「一生の課題」としての言語学習にもつながっていく.
日本の大学の外国語教育においても,外国語の能力を「個人的資産」から「社会資本」へと組み替えることの必要性が指摘されていることを考慮すれば,外国語学習を教室外での活動も見据えた言語学習活動に転換するべきだろう.そのためには,初級から学習方略に慣れる指導をし,その実用段階を目指すべきである.

 

吉村暁子(立教高校 / 神奈川総合高校)--第103回例会~~~~~
Sommer-Seminar für Deutschlehrer 2006 参加報告
0. ゼミナール概要
2006年9月7日から11日にかけて国立オリンピック記念青少年総合センターおよび東京ドイツ文化センターで行われた夏期ドイツ語教育研修会(Sommer-Seminar für Deutschlehrer 2006)について簡単に報告した。Vernadett Veress氏を講師に迎えた今年の研修会のテーマは,„Unterrichtsplanung. Unterrichtsbeobachtung. Evaluation. -Wie kann man kommunikativen Deutschunterricht organisieren?“であった。参加したのはテーマに関心を持って集まったドイツ語教員が16名,加えてGoethe Institutから4名,計20名である。
Veress氏自身のユーモア溢れる人柄と巧みなゼミナール構成で,参加者たちはスムーズに互いにうち解けるとともに,テーマに関して非常に有用な新しい知識,テクニック等を数え切れないほど得ることが出来た。今回は以下の4点にポイントを絞り,報告者の感想を添えて報告した。

1. 教師の言語学習プロセスを振り返る-Kursportfolio
自分自身の学習体験を記録し,反省し,時に見返すことによって学習内容の定着を高めるPortfolioという構想は既に日本でも知られ,試みられてもいる。このPortfolioに教師自身が自らの学習体験や教員としての養成経験を振り返り記録していくことによって,授業改善のための手がかりを得られることが示された。参加者たちもこのゼミナール全体を通じてPortfolioへの記入を(自由意志で)求められたのだが,実際Portfolioを仕上げていくことで自らの授業の問題点や改善案などが浮かび,意見交換などがスムーズに行えた。学習者の自立的な学習を補助し得るツールでもあり,かつそれを教員側に反省を促すツールともする点で,非常に興味深い提案であった。

2. 授業の構成について
授業計画を立てる際に踏むべき段階およびモデルが提示され,これに従って現在使用している教科書を用いて実際に授業案を立てた。その際には,グループ作業で以下のテーマに関して意見交換を行った。なおグループのメンバーは何度か組み替えられた。
1)学習目標や作業形式,教授材料等の分析作業
2)学習段階の把握
3)実践的かつ教育的な配慮ある計画の必要性
4)学習を通じて学習者の知識・能力・態度がどう変化するか
5)授業観察の有用性

3. 自立的な学習への方向づけ-Autonomes Lernen
Veress氏が強調したことのひとつに,教師には学習者自身が自立的に学習するよう導く役割が課せられているということがあった。学習者自らによる学習目標,内容,方法の決定には,たとえばPortfolioによる自己分析,評価,反省が有効である。しかしもちろん,学習の戦略的な面や効果的なテクニックに関しては教師が手を貸す必要がある。そのためにも,学習者の型(視覚的に覚えるタイプ,聴覚に頼るタイプ等)を把握することが有効であろう。
また授業での学習形式にも注意しなければならない。コミュニケーションを重視し自立的な学習を促すのならば,Stationenlernen, Freiarbeit, Projektorientiertes Lernen, Projektarbeitなどが効果的な学習形式として示された。こうした学習形式の場合,学習者はあるテーマについて自ら考え,その意見を他の学習者と交換する過程を経る。このような「自分」との結びつきの高い学習は,学習者のなかで定着しやすいということであった。

4. 授業へのヒント-さまざまな作業形式
5日間のゼミナール全体の構成のうちには,実際の授業に応用可能なさまざまなアイデアが盛り込まれており,はっとさせられることが度々あった。単調な授業にめりはりを付ける方法を学ぶことが出来た。
たとえばひとつの作業ごとに新たなグループに組み替えられ,常に新たなグループ内で意見交換が行われること,グループ分けには数字の練習等を組み込むこと。また身体全体を使って,座る,立つ,歩く,指さす,といった動作,触覚や聴覚への刺激を学習形式に組み合わせること,そのための補助教材として音楽やカード,写真等が効果的であることなども示された。
さらに私たち自身も行ったStationenlernenという学習形式は,スポーツの「サーキットトレーニング」を応用したものだが,学習者側にとって刺激に富み,自立性の促進,社会性の獲得等に効果的であるという利点をもつ。ただ教師側の負担が大きいという難点もある。
なおこのStationenlernenを利用した授業を,この報告の直前に30分ほど見学することが出来た。同じくゼミナールに参加していたドイツ文化センターで実習中の学生が,毎週金曜夜に開いているGoethe-Treffで行う際に協力を依頼したのだが,見学された方にはStationenlernenがどんな学習形式なのか多少つかんで頂けたとおもう。

5. 感想,私見等
参加の意義はまずもって,ドイツ語教員同士のネットワークが拡大し,かなりオープンな形で情報交換し,刺激し合うことができたことにあるだろう。また授業立案に関するVeress氏のさまざまな提案を,身をもって体験することで,例えばPortfolioなどは応用次第で参加者自身の授業へのフィードバックが可能であると思われる。
ただし議論には,常に「日本(の大学)で実践できるのか」という問題がつきまとった。しかし実践に対する教師側の不安よりも,検討すべき問題がある。日本のドイツ語教員がこの種のやる気がない学生,グループ作業したがらない学生,発言したがらない学生,といった問題に対する懸念を表すと,それに対して常に,「ヨーロッパでもどこでもある問題」であり,「まずやってみること」が重要だとする答えが返ってくることである。確かに工夫次第で実践可能な部分もあり,まずは取り込んでみようとする姿勢は必要である。だがドイツ語圏におけるドイツ語教育が,ドイツ語学習者の国や地域別の特色や傾向を無視するようでは,効果的な教授法とはいえない。すぐに解答が得られるような問題ではないが,このような問題が意識されたこともまた,このゼミナールの成果であった。
なおこの研修会は,近年参加者が減少傾向にあり,開催告知の方法等には改善の余地が見られる。次年度の夏期ドイツ派遣研修を希望する場合は参加が必須だが,ドイツ派遣を希望しない場合でも参加は可能なので,是非検討して欲しい。

 

座談会:ドイツ語教育研究会の今後を考える--第101回例会~~~~~
当日は、例会の今後のあり方について、ざっくばらんに意見を交し合った。以下に、当日出た意見を並べておく。

例会で扱う内容について
・授業報告は聞きたい(教材、プリント、練習方法、Team teaching といったテーマについて)
・授業報告でも具体的なテーマを設定して行なう。
・学会でテーマになるような理論的なものではなく、現実に密着した、授業に使えるようなテーマ
– 例えば、教科書採用の際の基準、独検に向けて、とか...

例会の形式など
・ざっくばらんに授業の工夫などを話し合う。(茶話会タイプで、より高度)
・読書会では、別の研究会と重なってしまう
・会場となっている GI という場所を上手く使って、情報をもらったり。
・参加者の集まる時間にばらつきがあるので、19時頃までは座談会形式にしてはどうか?
・毎回の前半は「年間テーマ」、後半は「報告」としてみては?

長い目で、年間のテーマを決めては?
例えば:
・小テスト
・講読/kommunikativな授業(授業スタイル別)
・教科書

運営について
・運営方法:MLを作る。
・参加費を見直す ← 通信費は、ほぼ必要なくなっているので
– ゼロにするのではなく、下げる。
– 200円 od. 300円

 

坂本昌子(慶應義塾大学院生)、細谷さおり(学習院大学院生)--第99回例会~~~~~
「第13回 IDT 2005 Graz」 参加報告
2005年8月1日から6日まで、オーストリア・グラーツで開かれた国際会議IDT(Internationale Tagung der Deutschlehrerinnen und Deutschlehrer)について簡単に報告した。この会議は4年に1度ドイツ語圏で開催され13回目を迎えるが、今回はグラーツ大学を会場とし、90カ国以上約2000人のドイツ語教員が参加した。各国のドイツ語教育事情に関する意見交換の場として、ドイツ語教育界の今後の展望について議論し合い、同時に各国の交流を深めるといった目的で行われた。
会議は、テーマごとに8つのセクションにわかれ、合計3つのセクションに参加することが出来た。セクションD1ではクラスの均一性に関する発表が行われ討論がなされた。均一性でないクラス構成の場合、生徒・教員間のインタラクションが活発となるという長所があるが、しかし教師が生徒に割ける時間が少なく、生徒・教員双方にとって円滑で充実した授業は展開できないという短所も挙げられる。完璧な授業環境をつくり出すことは不可能だが、どのような条件においてもドイツ語をやりたいと思わせるような教授・学習方法とは一体何なのかという点が討論の中心テーマとなった。
また、各国の教材に関するテーマを扱うセクションE5にも参加、ドイツに隣接していない国における教材の紹介がとても興味深かった。ブルガリアの教材では、ドイツと自国との文化の違いなどを比較させながら実践的なドイツ語能力の習得を目指し、副教材に音の出る辞書があるのも特徴の一つであった。コートジボアールの教材では、自国についてドイツ語で説明させるという箇所もある一方、復習や自己学習が十分にできないという難点があり、根本的な課題としてドイツ語を学習できる学習者層にも偏りがあるという問題点も指摘された。実際の生活の中でドイツ語を使用する機会が非常に少ない中、どのような教材であれば学習者のモチベーションを挙げ、保つことが可能かという点が強く問われた。
最後にセクションH1に参加したところ、理論的観点からの発表が多く見ることができた。母国語とドイツ語における文法構造的観点からの比較データに基づく発表、大脳生理学の観点からの文法習得に関する発表、学習者の習熟度に関する発表などが多い。このほか講演会、教科書会社主催の宣伝スペース、文化的な交流会なども催された。各国の文化交流を目的としたGrüner-Tagと呼ばれる場ではJDVとして日本文化を紹介したと同時に、他の国の文化も体感することができ、大変有意義であった。また講演会ではNeuner Gerhard氏によるDeutsch nach Englischという発表を拝聴した。英語の既習学習者に対して、第3外国語であるドイツ語を教える際に、どのような点に留意すべきかということについて、特に語彙学習を例に、既習の英語の知識を応用し、外国語学習経験を十分に生かす学習法が、ドイツ語学習の活性化につながるに違いないという見解であった。
IDTは参加者が多く、発表の内容や発表者がセクションのテーマでわけられたことから、大学院生からDaF研究者に至るまで発表のレベルが多岐に渡ったため、内容は千差万別であったといえる。しかし普段他国のドイツ語教育の現状について知る機会の少ない私達にとっては、その事実を聞くだけでも十分に興味深いものであり、同時に日本のドイツ語教育の状況や教育方針などについて、他国の人々が違和感を感じるということも今回痛感したことの一つに数えられよう。全世界に適応できるドイツ語教科書・教授法の開発はもはや不可能ではあるが、日本人の特性を逆に生かすような、日本ならではの教材や教授法をより一層研究・開発していくことも、日本のドイツ語教育の発展に寄与する1つの手段なのかもしれない。学問分野としてのDaFに関する理解が、日本国内ではまだ十分に浸透していないが、DaFそれ自体は実に多様性がある領域であり、ドイツ語教員を目指す上でDaFを研究することは実際の教育現場で反映され得るに違いないという確信を得ることができた。

 

小林英起子 (新潟大学)--第98回例会~~~~~
中級ドイツ語授業における「聴き取り練習」考 - ドイツの語学・音声教材を取り込んだ擬似ドイツ空間を超えてー
はじめに
1ゼメスターという限られた時間数で、全学部向開講の中級ドイツ語授業において、日本人学習者が苦手とする聴き取り力を強化するために、15分間のワンポイント練習を3年間続けてきた。これはドイツの音声教材を使って実践練習をした授業報告である。聴き取りから得る情報は、旅や留学に関心ある学習者には音のランデスクンデとして話題提供にもなっている。

I. 大学法人化と語学カリキュラム改革
2004年法人化に伴い、開講外国語科目が多様化し履修基準も緩和された。抜本的改革の柱として、外国語科目の実用性が一層求められている。第二外国語履修基準が複線化し、実質授業数も全体で圧縮されている。従来の全学共通科目、展開科目、外書講読などの外国語科目が、初修外国語の履修モデル(新大)へ順次統合化されつつある。

II. 新潟大学における中級ドイツ語授業
1. 前提条件
全学部対象で、初級単位を取得していることが条件であるが、初級履修4~8単位の文科系と2単位の理系学生(2004年迄)が混在するクラスである。週1時間、半期(15週)で、1単位扱い。
2. 初級ドイツ語カルテ
基礎履修状況が複線化しているため、ドイツ語の学習歴、難しかった文法項目、中級レベルに期待する分野・練習をアンケート項目にして開講時にドイツ語カルテに記入してもらい、実態把握に務めている。
3. 授業形態
定員25名で、前期20~30名前後、後期7,8~15名程度で、人文・法・教・工・理学部中心の2~4年生。人文学部は中級ドイツ語は必修、他学部は自由選択扱い。ヴィデオ、音響装置など整った外国語演習室を使い、机はコの字型配置を基本とする。

Ⅲ. 授業計画
90分授業の2/3以上はドイツにおける最新話題を、『時事ドイツ語トピックス』(ラープ/石井(著)朝日出版社)から主に、また関連記事をインターネットや易しい新聞記事から取り上げて、初級文法知識を確認しながら読解練習にあてている。授業開始時5分程度は、ドイツ人の日常生活に映像で触れる。(Goethe-Institut:Alltagsleben in Deutschland. 1993等を使用)授業後半15分を聴き取りワンポイント練習にあてている。30秒程の短い対話から、3~4分の路上インタビュー、宣伝、スーパー、駅の案内、ニュースなどを聞いて、大まかなポイントから細部へと内容をつかむ練習を重視している。
<聴き取り使用教材>
1) Bolton, Sibylle:Probleme der Leistungsmessung. Lernfortschrittstests in der Grundstufe. (Fernstudieneinheit 10) München:Langenscheidt 1996.
2) Dahlhaus, Barbara: Fertigkeit Hören. (Fernstudieneinheit 5) München: Langenscheidt 1994.
3) Dallapiazza/ Jan/ Schönherr: Tangram. Deutsch als Fremdsprache. Ismaning: 1998.
4) Österreichisches Sprachdiplom Detsch. Grundstufe Deutsch. Übungsmaterialien Bd. 3. u.a.
5) 独検過去問題集2005(郁文堂)

IV. 聴き取りの目標設定
ドイツ語話者の自然な速さの発話に慣れ、大要をつかむことから、しだいに具体的な細部の表現を注意深く聴き、理解することをめざす。

V. 練習プログラム (2004年 例)
1. Orientierung: Vorstellung / 2. Wer ist das? / 3. Zahlen (Telefonnummer, Adressen, Personen usw.) / 4. Einkaufen / 5. Wochenplan / 6. Telefongespräch (I) / 7. Telefongespräch (II) / 8. Ein Radioprogramm (I) / 9. Ein Radioprogramm (II) / 10. Am Bahnhof: DB Fahrplan. / 11. Interview (I) / 12. Weihnachtslieder / 13. Interview (II) / 14. Interview (III) / 15. Zusammenfassung / 16. Prüfung
90分授業後半の15分。テープレコーダー、CDプレーヤー使用。教師が用意した聴き取りヒントとなる語句、空欄穴埋め問題、部分書き取り問題をまとめたプリントを手元に置き、学生はメモを取りながら聞く。3回目で答えあわせをする。学生の反応を見て和訳をつけたりすると、予定時間が足りなくなることもしばしばである。

Ⅵ. 評価
聴き取りプリントは毎時間回収し添削される。提出物は学習点(10%)に加算され、定期試験でも30%は聴き取り問題にあてられる。ドイツに興味を持つ会話志向の学生は積極的関心を示す。初級段階でドイツ人の授業を受けた人には、聴き取りが具体的情景を伴い、取り組み易いようだ。履修時間が少ない理系学生には、ヒントや文字情報を多く与えることで、大要をつかんでもらえるように務めた。入試で英語リスニングが課された学科の学生は、ドイツ語聴き取りでも成果を上げていた。外国語学習の心理的障壁を除く意味でも、初級からの聴き取り練習が不可欠である。

VII. 課題
1) 録音教材による聴き取り練習は事前の準備あってこそ効果を発揮する。教師はメディア機器の操作、音声教材の編集に習熟する必要がある。
2) テキスト読解練習と聴き取り教材、発話練習の間に関連性を持たせた方がより効果的である。
3) 臨場効果音あふれる教材であっても、内容と時間配分を十分吟味して使わないと、レベルが高くなりすぎて音声のスキップとなり、練習も徒労に終わりかねない。
4) 母国語話者の生身の発話に比べて、音声教材は相手の表情が見えないため、理解に限界がある。教師自身にも、学生と一緒に毎回新しい内容を発見して聞こうという姿勢が求められる。
5) 聴き取りを苦手とする人向けに、図や挿し絵をアレンジした問題プリントも必要ではないか。

 

Marco Raindl, Keio-Universitaet SFC (Shonan-Fujisawa-Campus)--第98回例会~~~~~
Kontakt, Sprachpraxis, Motivation - Das Video-Tandem-Projekt am SFC
Im Sommersemester 2005 fanden erstmals Video-Tandems zwischen der Keio-Universität in Shonan Fujisawa, Japan, und dem Ostasienzentrum der TU Dresden statt. Deutschlernende auf der einen, Japanischlernende auf der anderen Seite trafen sich in Kleingruppen zu Video-Chats im Netz. Genutzt wurde hierzu die Video-Chat-Funktion eines Messenger-Programms, das kostenlos im Internet zu beziehen ist.
Im Verlauf ihrer Projektarbeit sammelten die Studierenden Material für einen Artikel, an dem sie in mehreren Etappen arbeiteten. Über die Publikation in einer Online-Zeitschrift wurden die Ergebnisse der Kleingruppenarbeit dem Plenum zugänglich gemacht.
Eine erste Auswertung durch die Studierenden zeigt, dass der Nutzen der Projekt-Arbeit fast durchgehend hoch eingeschätzt wird, auch wenn die Teilnehmer mit technischen und organisatorischen Schwierigkeiten zu kämpfen hatten. Als Erfolg kann auch gewertet werden, dass einige Teilnehmer sich bereits in persona getroffen haben. Auch ein Blick auf Artikel und Protokolle der Studierenden zeigt, dass die wesentlichen Zielsetzungen des Projekts erreicht worden.

 

加藤周作、石司えり(慶應義塾大学 政策・メディア研究科) --第96回例会~~~~~
ドイツ語自律学習教材「サッと独作!」作成とパイロット調査について
1.はじめに
SFCドイツ語教材開発研究プロジェクトでは西村則久氏による英作文自動添削システム「サッと英作!」をもとに、ドイツ語版「サッと独作!」を作成した。この「サッと独作!」はドイツ語学習の補助教材としてSFCドイツ語の履修者向けに開発され、2004年度春学期、試験的に運用された。

2.経緯と目的
「サッと独作!」はSFCドイツ語教育の一環として、 (1)SFCのインテンシブ(週4回)の授業サイクル(図)にある10分間テストをオンライン化して利用すること(2)WEB上の自律学習環境を整えること、を目指して作成された。 授業に直結しながら学習者が自分で管理できる学習環境を作る、ということが大きな目的である。

授業のサイクル

 

 

 

 

3.開発中の難点
英語版「サッと独作!」からドイツ語版である「サッと独作!」を作成する過程で生じた問題には、(1)未習の文法事項・語彙をどのように扱うか、(2)多数のバリエーションがBUD言語(*「サッと英作!」の正解記述用言語)で表現可能か、(3)特殊文字(ウムラウト、エスツェット)が「サッと英作!」のシステムでは表示できない問題をどう解決するか、などがある。現状としては、(3)以外の問題については解決し、現在ドイツ語履修者に利用されている。  解決策としては、(1)に関して、正解とはするが解答例として表示はしない、という方法をとった。(2)に関しては英語よりバリエーションは増えるが、BUD言語表現可能なことが実際の試行よりわかった。(3)の問題は未解決のままではあるが、常に学習者の見える位置に特殊文字の置き換えの表を示す事により、学習者の混乱を極力さけるように工夫している。

4.パイロット調査より
2004年春学期の試験的運用の後、2004年7月にはパイロット調査を行った。調査の内容は、インターフェースの改良と学習効果を聞くアンケートおよびその後のフォローアップインタビューである。結果、「サッと独作!」を定期的に利用している学生は少ないものの、ドイツ語の「書く」練習に役立っていると考える学生が多かったことが分かった。インターフェース面に関する調査からは直ちに「サッと独作!」に改良を施し、本運用に備えた。

5.今後
パイロット調査からは、「サッと独作!」の果たす役割や、ドイツ語に対するモチベーションの変化、教室での学習との関連があるかどうか曖昧だったため、今後の調査では量的調査から質的調査に重心をシフトさせ、より詳細な調査を行う。  今後のプロジェクトの課題としては、様々な嗜好の学習者に対応するため複数のIT教材を提供することも必要だと考えてる。

 

宮谷尚実(立教大学)--第95回例会~~~~~
「ドイツ語情報処理」 - 学生のコンピュータ・リテラシーの向上をめざして -
1.全学共通カリキュラムにおける「ドイツ語情報処理」の位置づけ
立教大学全学共通カリキュラム科目「ドイツ語情報処理」は、コンピュータに対する苦手意識を持つ学生のために開講された半期完結の自由選択科目である。2年次以降の学生であれば、学部学科を問わず履修が可能だが、卒業単位としては算定されない。この科目の特色は、これが単なるコンピュータ入門講座ではなく、語学科目として展開されている点にある。

2.授業の目標と流れ
受講した学生が、コンピュータ(主にWINDOWS XP)を用いてドイツ語を含んだ情報を処理できるようになることがこの授業の目的である。具体的には以下の内容を扱う。
1)WINDOWS の言語設定(ドイツ語特殊文字を直接入力できるよう設定する)
2)WORDを用いた文書作成・保存・印刷(ドイツ語による履歴書、ドイツ語のテクスト、図表を含んだ文書)
3)メール作法(日本語メールの書き方確認、ドイツ語による簡単なメールの書き方、ファイルの添付とダウンロード)
4)Internet Explorer を用いたネットサーフィン(ドイツ語ホームページの表示、検索サイト等の活用)
5)Excelを用いた簡単な表計算(ドイツ語を含んだ文字列の処理)
2004年度前期には、この科目を「ドイツ系企業就職シミュレーション」と見立てて実施した。
まず、手本となるドイツ語の履歴書をWORDで転記する。ドイツ語配列のキーボード(プリント配布)に慣れ、フォントや文書の設定、レイアウトの方法に慣れるためである。次に、受講生が自分の履歴書をWORDで作成し、企業(=教員)に提出する。個人情報のため、作成する履歴書はフィクションでも構わないと指示する。これを保存し(FDへのバックアップもさせる)、印刷してみることで、レポートをはじめとする基本的な文書の作成ができるようにする。
次にメーリングリストを作り、上司(=教員)からの連絡を受信し、返信する作業を行う。その際、家族や友達ではない間柄でのメール作法をまずは日本語で適切に行えるよう指導する。(プリント配布)その後にドイツ語での簡単なメールのモデルを提示し、以降はこの科目ではドイツ語でメールをやりとりするよう指導する。
この段階で、ごく簡単なDiktatを毎回行うようにする。ドイツ語の知識の確認はもちろんのこと、ドイツ語入力に慣れるためである。正解と訳は添付ファイルで送信し、学生からも課題は添付で提出させる。ここで学生は添付ファイルの受送信に慣れることになる。もちろん提出の際はドイツ語のメールを添えるよう指示する。
添付ファイルの送受信ができるようになったら、インターネットでドイツ語によるサイトを活用する。〈任務〉は、たとえば「ドイツ語のニュースを眺めて、おもしろそうなニュース写真を保存し、WORDに貼り付けて提出」や「上司の出張予定に合わせてDBのホームページで列車の接続を見つけて報告」、また「ドイツで過ごす一日のプランを写真や予算表を付けて提案」などである。作成した文書に短いコメントをドイツ語で書いて付けることも課題とする。
最後にExcelを用いてごく簡単な表を作成することを課題とする。その際の〈任務〉は「出張の支出をExcelの表にまとめる」「書店からの請求書をExcelの表にまとめる」などが考えられる。表で簡単な計算(合計、EURからYENへの換算)をできるよう指導する。

3.評価方法
最終回に試験を行う。2004年度の場合、①以前に行ったのと同じテクストのDiktat、②ドイツのお勧め情報(画像と列車接続情報を含むWORD文書)をメールに添付して時間内に送信することを課題とした。

4.反省・課題・展望
受講した学生からは、「コンピュータへの苦手意識がなくなった」、「以前よりも多様な作業ができるようになった」、「自宅にPCを買ったのでもっと練習したい」などの肯定的な感想が寄せられた。また、今でもこの科目とは関係なく提出物があるとドイツ語で書いたメールに添付してくる学生もいる。その一方で、ドイツ語力が足りずに苦戦していた学生も目立った。今年度のケースではドイツ文学科の学生が多かったため、ドイツ語の要求レベルを高めに設定できたが、今後は他学科からの学生の受講も想定して、Diktatなどの内容を考える必要が出てくるかも知れない。
内容では、Excelに代えてPowerPoint入門を入れてもよかったかもしれない。最近はゼミナールでの発表にPowerPointを用いることもあるという。それを考慮すれば、より活用の機会が身近にあるソフトを多く練習するほうがいいかもしれない。その場合、ドイツ語を用いたファイルを作成するため、「ドイツ語による自己紹介プレゼンテーション」や「ドイツ語によるドイツの(あるいは日本の)町紹介プレゼンテーション」を〈任務〉とするのも一案だろう。

 

磯崎 康太郎(上智大学)--第94回例会~~~~~
公文式ドイツ語教室と教材開発の可能性について
自律的学習を実践するために、(1)何をなすべきかを言われることなく、自己決定する能力、(2)自らの学習に自分で責任をもつ意欲と能力、(3)次の学習活動のために、批判的に省みて、自立した行動を起こしうる能力を学習者が養うべきであると指摘されている。この三つの能力について、公文式ドイツ語教室では、(1)学習量と学習速度を自己決定する、(2)自らの手で学習の記録を残す、(3)学習の記録を自己反省に役立てるという形での実践が試みられている。公文式で開発された教材は、学習者が、指導者に頼らず、自らの力で取り組むことができるように工夫されており、反復学習によって学習内容の定着が図られている点等に長所がみられる。しかし、完成された教材の功罪として、負の面に注目すれば、学習者は自らの創造性を発揮しにくいという状況がある。学習者が抱えている「未知のものを探る要求」が、公文式によって満たされているとは言い難いのである。
公文式の実践と教材は、日本の大学の第二外国語教育においても、教室外学習活動の展開とそのための教材開発という点で、大いに参考になるものと考えられる。減少されつつある授業時間数を充填するものとして、教室外での学習活動を展開し、そこで取り組まれる教材が開発されるべきである。従来の「宿題」を改善、整備した、学習者が自律的に取り組める教材として、公文式を参考した反復効果や内容の緩やかなステップアップを図った教材が求められる。それと同時に、学習者の内発的動機付けを高めるために、一つの解答を持たない学習課題や、外国語学習と現実体験との関連付けにも配慮することが望ましい。その意味で、コンピューターを駆使した学習活動は、教材の配布や管理という物質的問題を解決し、学習者、指導者、外的世界、各々の間での相互作用を円滑にするため、今後の教室外学習活動の実現に向けて、大きな可能性を秘めている。

 

堤 那美子(上智短大)--第93回例会~~~~~
『Szenen 2』を使用した授業報告~第2外国語における中級ドイツ語の可能性~
Ⅰ はじめに
報告者は過去3年間、上智大学一般外国語(第2外国語)のドイツ語の授業で、2年次の会話クラスを担当してきた。今回の報告では、3年間を通して『Szenen 2』を使用した際に気づいた、会話のクラスとしての自らの授業の問題点と、大学での第2外国語における中級ドイツ語の可能性を探ることを試みた。

Ⅱ 問題提起と目標~会話の授業の場合~
大学で外国語を学ぶ意義はもちろん様々だが、会話のクラスに関して言うと、必ずといっていいほど「話せるようになること」ということが学生側から挙がってくる。4月の年度始めのアンケートでは、ほとんどの学生が「話せるようになりたい」という目標を持っていることがわかる。教師側に立つ報告者としても、少しでも話せるドイツ語を身につけてもらい、将来何らかの形で役立ててほしいという希望を4月の時点では抱いている。
ところが、2年間ドイツ語をやって、ある程度テストでいい点を取っている学生でも、最終的にはほとんど話せるドイツ語力が残っていないのが現状である。
こういった「話せるドイツ語」が学生の中に根付いていないという事実には、報告者の教科書の扱い方における問題点が関係しているということを認めざるを得ない。

Ⅲ 『Szenen 2』の特徴と自らの使い方の問題点
『Szenen 2』の特徴としては、まず「テーマの多様さ」が挙げられる。目次を開けば、「レストランでの注文」や「ホテルの予約」、「道を尋ねる」など、そのままドイツで使えそうなものから、「環境問題」や「学校制度」などのアクチュアルな問題にいたるまで、学生たちが興味を示しそうなテーマが幅広く用意されているのがわかる。
さらに、この教科書の特徴として忘れてはならないのは、各課ともテーマに関連するダイアローグが、質的にも量的にもしっかりと設定してあって、会話練習がやりやすいということである。ダイアローグがあれば、それを基本パターンとして、単語を入れ替えるなどのペアワークが可能となる。
ただ、このダイアローグ部分を使った練習は、単に単語の入れ替えをすればいいという単純なものではなく、進め方によっては教科書の良さを生かせないまま終わってしまうこともある。
『Szenen 2』を使用した1年目、報告者はダイアローグ部分を大枠で以下のように扱った。
1) テープを聞かせる
→2) 教師による説明
→3) 発音練習
→4) 部分的に単語を入れ替えてのペアワーク(教科書を見ながら)
けれども、ダイアローグを使用する際、教科書を見ながらのペアワークを最終到達地点としても、学生たちの中にはドイツ語の表現は根付かない。
その理由は明らかで、上の1)から4)までのやりかたでは、結局、ドイツ語で書かれているダイアローグを「理解する」そして「発音を確かめる」といった作業にはなっても、「生きた表現を使う」という段階には程遠いものだからである。
教科書がいくら「レストランで注文する」「道を尋ねる」など、リアルな場面を提供してくれていても、それを授業でテキストに書かれたものとして平面的にしか学生たちに示せないとしたら、会話のクラスの効果はあまり期待できないだろう。

Ⅳ 「話すことができるドイツ語力」を養うための訓練の可能性。~覚えた表現を使っているという実感を学生が得られる授業を目指して~
では、教科書のダイアローグを、単なる教科書を見ながらの機械的なペアワークを越えた次元で使用するには、どうしたらいいのだろうか。
言うまでもなく、ダイアローグ部分に使われるドイツ語は、実際の会話から切り取られたようなリアルなものが多い。問題解決の糸口として、このリアルなドイツ語で書かれた対話を、教師がいかにリアルなものとして演出できるかということが、ひとつには挙げられるのではないだろうか。
もちろん、ネイティブではない教師が、教室という場所で会話の授業を受け持つとなると、それだけで多くの障害に阻まれてしまうような気もするが、様々な制限があっても、最大限ベストを尽くすことが重要であろう。
さきほど、教科書の場面を教師が「リアルに演出する」と大げさに書いたが、実際できることは、1ページ1ページの小さな工夫であったし、今でもそうである。
例えば『Szenen 2』の第3課に、「銀行で両替する」という場面がある。教科書での課題は、ばらばらになっている全体を並べ替えるというものであるが、ここでは通貨や金額を入れ替えてのペアワークも可能である。
けれども、このダイアローグは、全体的に短い文で構成されていて覚えやすいため、さらに踏み込んだ場面設定をして、完全に教科書を見ない会話練習を行うこともできるだろう。
場面設定の一例は、学生たちが現在ドイツに住んでいて、そこへドイツ語を話せない友人が訪れ、銀行へ連れて行き、通訳するというものである。
友人が日本語で「日本円をユーロに両替したい」と言うと、通訳になった学生は、銀行員に向かってそれをドイツ語に訳し、銀行員の「おいくらですか」などの答えを友人に向かって日本語で説明するということになる。
たとえ短い文ばかりでも、ドイツ語を日本語に直して「理解する」という作業を越えて、日本語で言われたことを「ドイツ語で表現する」という視点を入れることによって、学生は「言葉を使っている」という感覚を味わうことができる。さりげない表現でも、何も見ないで自分の力でドイツ語に訳せたということは、自信にもなる。
ダイアローグは、このように教科書にはない場面設定をしない場合でも、生きたものとして扱うことはできるであろう。ペアワークの段階であっても、最後はドイツ語を「読む」のではなく、自分の中で言葉を「作り出す」という練習が入れられれば、そのときに初めて「話せる」といレヴェルのドイツ語が根付いてくれると、報告者は考えている。

Ⅴ まとめ
授業内だけで学生たちに「話せる」ドイツ語を身につけさせることは、もちろん難しい。ただ教師の側で、「話せるようになる」という目標を視野に入れたうえでの小さな工夫を重ねることで、教室を生きたドイツ語を体験できる場に近づけることはできるのではないだろうか。
基礎を一通り終えた2年目だからこそ、1ページ1ページを急ぎすぎてしまうのではなく、ときにはじっくり学生たちにドイツ語力を育ててもらうことができたらと思う。そして、2年間で根付いたドイツ語をもとにして、将来学生がそれぞれの形でドイツ語と付き合い続け、この言葉を財産としてくれたらと思う。

 

中島 伸(日本大学)--第92回例会~~~~~
間接引用文を導入する動詞sagenと前置詞zuの有無
動詞sagenが直接引用文を導入する際,聞き手を表す与格目的語は前置詞zuと共起し,逆に間接引用文を導入する際,与格目的語は前置詞zuと共起しないと言われている。
(1a)Er sagte zu mir : „Ich kann nicht kommen.“
(1b)Er sagte mir, daß er nicht kommen könne〈kann〉.
(1c)Er sagte mir, er könne nicht kommen. (小学館独和大辞典)
しかし,以下の例文(2)と(3)のように,動詞sagenが間接引用文を導入する際,与格目的語と前置詞zuが共起するケースも存在し,何らかの規則性・原因があるのかが問題となる。

(2)Als Brunelda das bemerkt hat, hat sie zu Delamarche gesagt, daß das nicht so weitergeht und daß man noch eine Hilfskraft wird aufnehmen müssen.(Kafka:Amerika)
(3)Der Forstmeister, dessen Fröhlichkeit dahin war, sagte seufzend zu Dietegen, es sei ein saurer Gang für ihn, aufs Rathaus zu gehen und bei dem Kind zu wachen; … (Keller:Die Leute von Seldwyla)
Keller, Kafka, Thomas Mannの散文作品からの実例を元に,間接引用文を導入するsagenと与格目的語が共起する実例数を調査した結果,従属の接続詞dass, obまたは疑問詞などの導入語を持つ間接引用文(導入文)を導く例文は,Kellerが11例,Kafkaが33例,Thomas Mannが85例あるが,Kafkaの1例以外は全てzuと共起しておらず,また,導入語を持たない間接引用文(非導入文)を導く例文は,Keller作品では14例中,zuと共起しない文が9例,共起する文が5例,以下,Kafka作品では3例中,共起しない文が2例,共起する文が1例,Thomas Mann作品では48例中,共起しない文が41例,共起する文が7例という結果になった。

以上の調査結果について,次の2つのことが言える。
1)与格目的語と前置詞zuの非共起関係
動詞sagenには「言う」,「伝える」という2つの意味があるが,間接引用文を導入する際の意味は後者の方と考えられる。その理由は,間接引用文とは,「(原則として)引用者の発話場面の視点で表現を換えて,命題内の話者の発言内容だけを聞き手に伝える形式」と定義されているが,これは,命題内の話者の発言ではなく,本来の話者の聞き手に対する「伝達」と言えるからである。当然「伝える」という意味のValenzでは,与格目的語は義務的補足成分となる。よって,動詞sagenは前置詞zuと共起しないケースが多い,と考えられる。
2)与格目的語と前置詞zuの共起関係
動詞sagenが導入語を持たない間接引用文を導く際に,前置詞zuと共起するケースも存在する。ではなぜ,導入語を持たない間接引用文の場合に,「伝える」という意味の動詞sagenと前置詞zuが共起しているのだろうか。こうした問題が生じるのは,動詞sagenが導入する導入語を持たない間接引用文中の定動詞の位置と,直接引用文中の定動詞の位置が共に正置であることと関係がある,と考えられる。しかし,引用節中のModusが同じになってしまうと,両者の区別が困難になる場合もある。そこで,前置詞zuと共起するsagenに導入される導入語を持たない間接引用文中のModusを調査したところ,Keller作品の5例,Kafka作品の1例,そしてThomas Mann作品の7例では,全て接続法が用いられていた。これは,直接引用文との区別のために接続法が用いられている,と考えられる。

以上の結果から,動詞sagenが導入語を持たない間接引用文を導く際に,認知的に前置詞zuと共起するケースもある,と考えられる。

 

栗田圭子(上智大学)--第92回例会~~~~~
初級ドイツ語教材分析・教授法の視点から
本報告ではまず五つの外国語教授法(文法訳読方式、ダイレクト・メソッド、オーディオ・リンガル方式、オーディオ・ヴィジュアル方式、折衷方式)の特徴について概観した後、実際に自分が大学の初級ドイツ語会話の授業で使用した教科書(『自己表現のためのドイツ語1・Farbkasten Deutsch neu1』三修社)の中でこれらの教授法がどのような形で生かされているかを検討する。
1.教授法について
1) 文法訳読方式(Grammatik-Übersetzungsmethode:GÜM)
外国語教授法の原点ともいうべきものである。この教授法が目的とするのは、文献講読とその理解であり、そのために必要な語彙や文法の習得が課題であった。したがって授業ではまず例文を用いて文法規則が説明され、次に該当する文法規則が含まれる文の翻訳、さらには母語の外国語への翻訳といった手順で進められた。
2) ダイレクト・メソッド(Direkte Methode:DM)
ダイレクト・メソッドの「ダイレクト」とは、母語を使用せずに外国語を学習すること、つまり授業そのものも目標言語で行うことを意味する。DMでもっとも重視されるのは反復練習で、教師の言葉を聞き取り、模倣することが要求される。文法規則はこの反復練習によって帰納的に把握され、GÜMのように最初に提示されることはない。練習の際にはたとえば買い物などの具体的なコミュニケーションの場面が設定されているため、一つの課で習得する語彙や文には内容的なまとまりがある。
3) オーディオ・リンガル方式(Audiolinguale Methode:ALM)
4) オーディオ・ヴィジュアル方式(Audiovisuelle Methode:AVM)
この二つの方式はDMの指針を受け継ぐ形で発展した。ALMの場合はランゲージ・ラボラトリー(Language Laboratory)と呼ばれる外国語教育専用の教室で音声教材が使用されたことが特徴的である。いっぽうAVMではもっぱら音声教材からなるLLに加えてスライド、OHP(overheadprojector)、映画、テレビなどの視覚教材が持ち込まれた。
5) 折衷方式(Vermittelunde Methode:VM)
この教授法では、GÜMとDMの有用と思われる部分がそれぞれ利用された。つまりこれはDMと同様、口頭コミュニケーションの場面を想定した内容的にまとまりのある例文を提示し、反復練習も行うが、GÜMと同じく文法規則をまとめて説明する方式である。またALMやAVMで見られたように視聴覚教材も随時取り入れられている。文法については基本的に単純なものから複雑なものへと進むが、過去形よりも現在完了を先に学習したり、1格、4格、3格、2格の順で登場するなど、従来とは学習順が変わっている部分もある。これはコミュニケーションの場での実用性と大きく関係している。

2.実際に使用したドイツ語教材との比較:『自己表現のためのドイツ語1・Farbkasten Deutsch neu1』三修社
この教科書は物語仕立てになっていて、日本人の聖子がドイツでホームステイをしながらドイツ語を勉強するというものである。CDが添付されていて挿絵も豊富であり、視聴覚メディアが利用されている。それぞれの課は日常生活の場面ごとに構成されており、たとえば第一課は聖子が渡独する場面で、飛行機の中で飲み物を注文したり、臨席の人と自己紹介をしあったりというDialogが設定されている。そして各Dialogにつき3~4つずつのÜbungen(Dialogで使用した表現の反復練習、類似した別の表現など)が付随している。つまり、具体的な口頭でのコミュニケーションの場面を設定し、反復練習を行うところはDMと同様であり、各課の最後に文法のまとめのページがほどこされているため、執筆者が文法規則の体系的な理解も重視していることがわかる。ただしその文法規則は単純なものから複雑なものへと進んでいくものの、冠詞にせよ人称代名詞にせよ1格→4格の順で登場する。文法規則の学習順を決める際にはVMと同様、実際のコミュニケーションでの使用頻度という基準が優先されていることがうかがえる。
ここで挙げた教授法を手がかりに、今回取り上げた教科書が口頭コミュニケーションでの実用性を重視し、同時に文法規則の体系的な習得も目指していることが理解できた。そしてどの教科書も当然、教授法だけでなくそれが使用される環境や条件に大きく規定されるだろう。たとえばこの教科書では練習の指示や単語の意味は日本語で与えられており、少ない時間数でより効率的に授業を運営しなければならない日本の大学におけるドイツ語教育の現状が垣間見える。とはいえ日本のドイツ語教材がすべて同じ視点から編纂されているわけではなく、教師はそれぞれの授業の目的に合った教材を選択することが肝要である。

 

末松淑美(国立音楽大学)-- 第90回例会~~~~~
夏期ドイツ派遣研修の報告
文部科学省と東京ドイツ文化センター共催の平成15年度夏期ドイツ派遣研修に参加し、ミュンヘン校とドレスデン校で計4週間学んだ。豊富で多彩だった内容から、「ドイツ語授業に音楽を取り入れる試み」など、主に教授法について学んだことを中心に、以下の4点に絞って報告した。
Ⅰ. 研修プログラムの概要
Ⅱ. 外国語としてのドイツ語(DaF)授業に音楽を取り入れる
Ⅲ. ミュンヘンとドレスデン
Ⅳ. DaF授業におけるドイツ事情の位置付け
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Ⅰ. 研修プログラムの概要
「DaF授業におけるドイツ事情と教授法」というテーマのもとに、さまざまな形式と内容の授業から構成されていた。主なものとしては、1)テーマ別調査と報告(=Themenrecherchen + Präsentationen)、2)教授法セミナー、3)講議、4)見学、などが挙げられる。その中で、もっとも印象的だったのは、1)のインタビューによる調査とその報告である。日本で一般的なのは、ハンドアウトや映像資料などを使ったプレゼンテーションだが、ゲーテ・インスティテュートの教員セミナーで一般的なのは、寸劇やピンボードを使った、遊び的要素を含んだプレゼンテーションである。6回行われたプレゼンテーションの中で、特に面白かったのは、見本市形式である。各グループがブースを作り、来訪者に説明し、質問に答える。すべて違う形式で行われ、どれもがドイツ語の授業に応用できるものであった。
調査と報告の間に織り込まれるように、2)、3)、4)の時間が組まれていた。2)では、①音楽や美術などを、いかに効果的に語学授業に用いるか、②新しい文学の傾向、③DaF授業におけるドイツ事情の定義、などについて学んだ。このうち、①を取り上げ、特に音楽の利用について詳しく報告した。

Ⅱ. 外国語としてのドイツ語(DaF)授業に音楽を取り入れる
セミナーで紹介されたさまざまな方法のうち、いくつかを紹介し、コメントした。
例1:最近ドイツで人気のラップのグループ「Die fantastischen Vier」のプロモーション・ビデオを利用する方法(ビデオ教材シリーズ「Turbo」第8巻、”Tag am Meer”)
↓音声を消して映像だけを見る
↓歌のタイトルを考える/思い付く単語を挙げる
↓歌詞カードを読む/気に入った箇所に下線/感想の交換
例2:音楽から連想する絵を描く方法
↓1分ほど音楽を聴く
↓連想するイメージをペンなどで描く
↓グループ内で絵を見せあい、比較したり、尋ねあったりする
↓全く別のタイプの音楽を聴いて、同じ作業を繰り返す
グループごとに1つの絵を描いて、クラス全体で比較するという方法もある。
例3:歌詞に出てくるキーワードだけに反応する方法
↓事前に新聞記事などで、歌詞に出てくるキーワードを学ぶ
↓歌を聞き、キーワードが出てきたときに、該当する新聞記事を手に持って上げる
例4:歌詞を先に読んでから、音楽を聴く
↓歌詞カードを4〜5枚のパーツに切ったものを各グループで正しい順序に並べる
↓音楽を聴く
いずれの方法も、少しの工夫で、初心者から上級者まで、すべてのレベルに応用可能である。また、ゲーム的要素が強い。一方、問題点としては、1)授業に音楽を使うタイミング、2)授業に音楽を使う効果、の2点を挙げた。いずれも教員セミナーでは取り上げられなかった問題である。1)に関しては、例えば例1のような「夏」をテーマとする歌は、「夏」に使うのが好ましく、普段カリキュラムにそって授業をしながら適所に適材(=音楽)を用いるには、かなりのレパートリーが必要である。また、日本に居ながらドイツのポップスの流行に着いて行くというのは難しく、この点では、東京ドイツ文化センターのPV担当官がサポートを申し出てくれた。2)に関しては、音楽を用いることによって、不安・躊躇というような、語学授業での〈感情の壁〉を取り除くことができるのではないか、という私見を述べさせていただいた。コミュニケーション型の授業の必要性がますます求められる中、学生を書かれた文字からしばし引き離し、感情と言葉を直接結び付けさせることができるのではないか。

 

小原 力(湘南学園高校・一橋大学学生)-- 第89回例会~~~~~
「大学のドイツ語入試について―ドイツ語受験の体験から―」
0.はじめに
自らの独語受験の経験を生かすべく、高独研会員として独語入試を取り巻く諸問題に取り組む。この発表はこうした経験から、一橋大独語の問題を中心にしつつ独語入試について感じたことを述べるものである。
私自身は、前の大学で独語を第一外国語にして4年間、その後も2年間、受験までは合計6年間独語を勉強してきた。しかし高校での独語履修者の一般的状況として、選択授業で週2時間を1年間というパターンが多く、2年以上あるいは3時間以上というのは大変恵まれたケースである。
センター試験についても一言だけ述べると、ほとんどの年度の問題は半分程度の時間でかなりの高得点が取れるレベルであったが、2002年は時間がぎりぎりで、過去最悪水準の点数しか取れなかった。詳細は米井先生の発表に譲ったが、ここ2年間は難しくなっているというのが実感である。
1.独語読解
一橋大独語は例年、独語読解3題、独作文と書き取り各1題の計5題である。ここではまず独語読解から述べるが、その中でも独文和訳が圧倒的に多い。これらの問題について気づいたことを挙げる。
まず語彙が難しい。大学側が望みうる最も恵まれた条件である1外3年間12単位(週4時間)のケースの場合、文科省の学習指導要領に準じて算出すれば学習できる語彙は2100語程度にしかならない。
米井先生のデータベースによれば、2003年前期は74、同後期は82、2002年前期は88、2002年後期は60、これだけの語彙数が基礎語に含まれていなかった。1文の長さは、3行を超えることがないのでほぼ適切か。テーマは一概に悪いとは言えないし、2000年前期第2問のように高く評価できるものもある。
ただ、採点の基準がどのようなものかはっきりしない。分量、文法、語彙、日本語表現力などいろいろ基準は考えられるが、どのように基準を作るべきなのだろうか。実はこれは難しい問題である。
その他の読解問題が出題されることは(問題自体の良否はさておくとしても)意欲的な試みであり、歓迎したい。

2.独作文
一口に独作文といっても難しいが、一橋は和文独訳と自由独作文のいずれかである。従来は和文独訳のみであったが、ここ7年で自由独作文が増えた。ところで和文独訳の問題が難しく、大学院レベルとも思える。2003年後期で自由独作文が復活したが、これは大いに歓迎されるべきことである。また、2003年後期の問題は過去の問題(1999年前期)と事実上同一問題であるが、良問は繰り返し出題するという出題者の英断を高く評価したい。
採点基準は独文和訳と同様に難しい問題である。つまり、文法的な正確さと独語らしさのどちらを優先するか、語彙の誤りや脱落をどう評価するか、などの点である。

3.書き取り
3度読まれる上に、1語1語を丁寧に読み上げるほど非常にゆっくり。これなら2年程度勉強した2外レベルでも十分に対応可能ではないだろうか。ただし、書き取りテキストはともかくテープを公表していないから、どの程度まで聞き取る力があればいいのか多くの受験生は困るであろう。

4.入学後のドイツ語履修
一橋大学では独語で受験した学生が引き続き独語を履修する場合、中級・上級から8単位選択必修ということになっている。しかし、一橋大学の入試で合格点を取る力があれば中級・上級の授業はかなり易しいのでは。私自身も、授業に1度も出ていない中級科目の試験を受けたら、持込を許された辞書もほとんど使わず時間を大量に余して終わった。入学前の受験勉強と入学後の学習との継続性が考慮されているかどうか、はなはだ疑問である。一方、全国の半数近い大学では既習者に対して「特別の配慮はしていない」というのは、さらに大きな問題である。

5.まとめ
全般的に、一橋の問題は難しい。また、その他の大学の問題を解いてみてもそう感じられる。大学院入試問題との比較など、詳細は今後の研究課題。一方、各大学の入試の独自性は保障されるべきであり、それと難易度とのバランスをどうとるかは大きな課題である。入試問題に関する統一的な基準が作成されることが強く望まれる。

 

渡辺 学(立教大学)-- 第88回例会~~~~~
ケータイ若者ことば - 日独対照研究の一事例
本報告では,はじめに「若者語研究」の目的と意義を概観したのち,http://www.mediensprache.net/de/networx/というサイト上にNetworx Nr. 22として公開されているPeter Schlobinski教授(ハノーファー大学)らのショートメールの言語的特徴に関する論考 〔=Schlobinski et al. (2001)〕,とりわけそのアンケート調査と,それに基づいて日本のケータイ若者ことばを分析した報告者の論考〔=渡辺 (2002)〕を紹介した。この対照調査では,ショートメール・テキストをコーパスとして集め,さらに,若者の言語意識・行動に関する質問への回答を含めた全体を言語学的・メディア論的に解析することを試みている。その際,ドイツにおけるショートメール(SMS)の定義が明確なのに比して,日本ではややあいまいで,狭義のショートメールばかりでなく,「ケータイメール」テキスト全般をコーパスに集めた経緯を説明した。さらに,日本の特徴である絵文字・顔文字の使用・多用を含めて,メディア環境の相違が,ある種のメディア的規制となってテキストの発現形式自体に影響している点に注意を喚起した。
ついで,OHCによって,現在Schlobinski/Watanabeとして前記サイト上のNetworxの論考として準備中であるグラフ等を示しながら,「話しことばと書きことばの境界が溶融する現象」,「書きことばの(潜在的・本質的な)口語性 (konzeptuelle Mündlichkeit)」などを順次説明した。その際扱ったテキストの例には以下のようなものがある。

🙁 EIN RABENSCHWARZER TAG HEUTE 🙁 WERDS IHM AUSRICHTEN 🙁 ALLES KLAR BEI DIR? FREUE MICH AUF UNSER DATE AM FR 🙂 EINEN STRESSFREIEN TAG WÜNSCHE ICH, GUK, ME

おいっす!お疲レーション(^_^;)バイキュ!(^O^)/~~ (36)

もう帰ってきた?授業ちょうつまんないし暇暇暇暇暇暇暇暇 (-_-) (-_-) (-_-) あと四時間も学校だよ (>_

たとえば,顔文字についていえば,それが使用されていること,顔文字が陳述に占める位置や果たす役割は日独共通だが,顔文字の種類,顔文字の使用頻度は圧倒的に日本が上回る。さらに,日本語においては,頻繁に現れる絵文字・顔文字が句読点の役割をも担う(あるいは,その意義を無化する)こと。ドイツ語では短縮・省略語が際立つ一方で,日本語ではそれに加えて語尾・文末をはじめとする音の伸ばし(甘ったれた親しみの表現?)も存在すること。ドイツ語の方が英語語法が相対的に多いこと。日本語では古語語法などによる語彙的・文体的ずらしが目立つこと。また,幼児語の使用例が見られること。また,コミュニケーション論的にも注目すべき点として,日本の若者の方がコミュニケーション・ツールとしてのケータイへの依存度が高いこと,などを説いた。
報告の後半部では,若者語対照研究の可能性を,歴史的・体系的視点から,また,若者語や口語表現の語彙集編纂の可能性と関わらせながら論じた。最後に,言語変種・世代語研究としての若者語研究に学部生・大学院生などの若手研究者が「ネイティブスピーカー」として取り組む意義を説き,教員として若者に接しているわれわれにとって,ドイツ語教育・教授法との関係において若者語を意識的に捉えることがどんな意味をもつのかについてコメントした。
質疑応答では,術語に関する質問のほか,「若者語の賞味期限」についてや「漫画の吹き出しに出てくることばは書きことばなのか,それは若者語に影響を与えているか」といった質問が出た。前者には,流行語としての性格も一部もっている「若者語」はたしかに時の流れにしたがって変容するが,日用語との境界に位置するような「若者語」の基礎語彙等を確定し,それを辞書等に収めることはできるのではないかと答え,後者については,「漫画を含めたメディアの若者語への影響はたしかに大きいが,具体的分析については,自分自身を含めて今後の課題となろう」と答えた。

 

島 憲男(上智大学)-- 第87回例会~~~~~
Tangramを使った「第2外国語としてのドイツ語」初級コースについて
0. はじめに
上智大学一般外国語教育センターで報告者が担当しているTangram 1A(Hueber 社)を使った初級コースについての授業報告をするにあたり、本来は「一般外国語教育センターについての説明」、「Tangramを日本の大学で教科書として使用することついての利点と改善点」、そして具体的な「授業報告」の三本柱が必要であると思われる。しかし前者2点についての詳細はすでに新倉・正木・中野の三氏が第83回例会(2002.5.17)で発表・報告しているとのことであり、重複を避けるために今回は簡単に一般外国語教育センターの理念・目標等に触れた後(第1節)、報告者が担当したTangramによる初級コースの授業からその状況をできるだけ具体的に紹介し(第2節)、報告者の考える今後の課題(第3節)を報告したいと考えている。

1. 上智大学一般外国語教育センター
上智大学一般外国語教育センター(以下、センターと略記)は、大学内の一般外国語教育の質を向上させることを目的に1999年に設立され、2000年度入学生より現体制のもとでの外国語教育を提供してきた。学科指定の廃止とブロック制の導入により、従来とは異なって一つのクラスの中に多様な専門を持つ学生たちが集まるため、センターが目指す学部・学科の枠を超えた新しい外国語教育の理念・目標を吉田研作センター長は以下のように提示した(吉田(2002:16))。[i]
上智大学の一般外国語教育の目標は、
(1)あくまでも専門教育を外国語で行うための基礎を作ることにあり、外国語を使って「思考し表現する能力を育成すること」にある。
(2)国際社会で通用するコミュニケーション能力を育成する。
(3)国際的な場面におけるコミュニケーションに必要な異文化間コミュニケーション能力と、世界の多様な文化や価値観に対する理解と感受性を育成すること。
報告者のみならずセンターに関わる外国語教育担当教員は常に上記の内容を念頭に置きながら、日々の授業に挑戦しているのである。

2. 2002年度の担当授業から
センターでは2002年度は別表で示すドイツ語科目が開講され[ii]、報告者も多様な授業を担当する機会に恵まれたが、ここではコミュニケーション総合コース初級クラス(Tangram 1Aが共通テキスト)の授業に限定して報告する。
この授業の形態は全てTeam Teaching方式で、週に2コマの授業をドイツ人と日本人、あるいは日本人同士でのペアで行った。同一内容の授業が、当該ブロックの中のみならず、全てのブロックに存在するため、各クラスでの最低学習内容を統一するための「共通プログラム」[iii]を作り、それを指針としながら授業を展開していった。この共通プログラムの内容は豊富で充実しており、前期では27回分、後期では25回分の授業内容の提案が記されている。もちろん記載内容はあくまでも「提案」であるため、最終的な授業内容・計画は各クラスを担当するペアが決定していかねばならない。報告者はこの共通プログラムが特に有意義なのは、これによって次年時の中級クラス(Tangram 1B 使用)の基礎が整えられ、クラス間の学習項目の差異を最小限にしてくれている点にあると考えている。
各クラスの学生数はブロックによりまちまちだったが、報告者の担当したクラスでは最少学生数は11人で、最多学生数は38人であった。一般的に言われているように、少人数である11人のクラスでは報告者が学生一人ひとりに対して目が行き届く点、ドイツ語を使ったペア練習の指導や、学生が質問・発言をしやすい雰囲気作りといった点では非常に上手くいったクラスであり、全体的に比較的ドイツ語習得のレベルが高かった。その一方で、興味深いことに多人数クラスでは、数名ではあるが非常に優秀な学生が突出した。学習者の出身学部や大学入学前までの経験等、様々な要因があるため一概には言えないのだが、人数の多いクラスであるがゆえに、却って学習者自身が既習事項を自分のものにしていく努力を地道にしていったためであると思われる。
評価は4単位一括評価方式で、その方法は(1)85%以上の出席を最低条件[iv]とし、(2)小テストと前後期末テストを合わせた年6回のテスト結果と(3)授業への積極的な参加態度を総合的に判断して行った。テストは日本語からドイツ語への、あるいはその逆への変換を問う問題ではなく、ドイツ語の状況の中でドイツ語を発信していくような問題をできるだけ心がけた。例えば、試験の際に報告者らが口頭で行うドイツ語の質問(eg. Woher kommen Sie?, Welche Staatsangehörigkeit haben Sie?, Was machen Sie am Wochenende? …)にドイツ語で自らのことを答える問題では、既習の表現を使っているとはいえ、ドイツ語の聞き取りと、その後のドイツ語での正しい応答の習得が期待されている。さらに、自己紹介や買い物などの対話形式の問題や、basic level のカテゴリー(eg. Gemüse, Obst …)からより具体的な語彙を列挙させる語彙問題等は、学生自身が必要なドイツ語を主体的に習得していく過程での学習意欲をできるだけ削ぐことなく、いかにしてTangramでの学習目標を達成しているかをテストで評価するべきかという試行錯誤の試みの1つなのである。
テスト以外にも報告者がTangramの授業[v]で留意していることは、「各回の授業での重要項目や目的・目標の明確化」、「毎時間の発音練習と、学生達がドイツ語を使う時間の確保」そして「学生が質問・発言をしやすい環境・雰囲気作り」などである。学生たちの要望に応える形で、Tangram-Support-Homepageを立ち上げているとはいえ、初めて手にした教科書にはドイツ語しか書かれていないという状況は、全くのドイツ語初学者達には些か荷が重すぎる様である。そのような中で、報告者は学生達に習得するべき項目を毎時間明確に伝えることは学習の方向性を示すうえでも、特に有意義であると考えている。学生達が授業での学習内容を予め理解したうえで、実際に自分達の口を使ってドイツ語を何度も発音し、自分の耳で聞く作業をしてもらう。そして学生同士がペアを作り、既習事項をも活用しながら、対話練習へと発展していくなかで、重要な項目ほど何度も口にし、何度も耳にしていくのである。学生達の日常がドイツ語にどっぷり浸かっている生活とは言い難い現状では、学生達が自由にドイツ語で話す時間を毎時間確保することは、たとえ短時間であったとしても、単なるpattern practice の域を超えて重要であると報告者は考えている。ペア練習の中で学生達は自分の欲する表現や語彙を発見し、ドイツ語圏への興味や関心を広げていくからである。報告者は学生達が知りたいと感じたことには、教科書の内容を越えた質問であったとしても、原則として全員に対して答えるようにしている。また、どんな些細な、あるいはどんな奇抜な疑問[vi]でも気になることは質問するようにも指導している。学習者が自分の欲求から発した質問は一番記憶に残りやすいと考えるからであり、自分の持った疑問を自分の言葉で相手に伝えることは上述第1節で紹介したセンターの理念・目標に近づく第一歩だと思っているからである。もちろん、全ての学生達が始めから自ら進んで質問してくるわけではなく、そのためには時間が必要であった。報告者は授業中に学生達が少しでも発言しやすくなるよう、授業の始めに一人ひとりに対してドイツ語での短い質問をしていった。授業開始とともに各自に発言をさせてしまうのである。四月には小声で口ごもっていた学生達も日を追うごとに慣れてきたらしく、五月を過ぎるころにはほとんど抵抗が無くなっていったようである。すると不思議なことに、それに比例するかのように質問や自由な発言が増え、クラスが活気づいていったのである。

3.今後の課題と展望
報告者が現在急務と考えているのは、1回の授業時間に扱う項目の精選である。プログラムをこなすだけで精一杯になってしまうのではなく、プログラムの内容を減らしてでも各ペアの裁量に任せる部分を増やすことも考慮に入れなければならないだろう。また、Tangramに出てくる表現を単に暗記するのではなく、ドイツでの生活習慣や考え方というコンテクストの中で個々の表現や語彙を使えるように Landeskunde の強化が報告者の授業の中でも必要である。さらに、Tangram 1AからTangram 1Bへのスムーズな移行の方法や、Internet を始めとする新しい可能性の積極的な活用は報告者が今後考えていかなければならない重大な課題であると考えている。

参考文献
吉田研作. 1999. 「上智大学一般外国語教育センター発足にあたって」.  In: 上智大学一般外国語教育センター発行 Lingua 第10号、3-6頁。
吉田研作. 2002. 「上智大学における外国語教育改革の取組」. In: 文部科学省高等教育局学生課編. 『大学と学生』(MEXT 68)6月号、15-19頁。

[i] 吉田(1999)には学部内でのセンターの位置づけが提示されている。
[ii] 紙面の都合から2コースの区別や各授業の内容の詳細、あるいは他の外国語等については、www.sophia.ac.jpで「講義要項・外国語科目」の個所をご参照願えれば幸いである。
[iii] 年度末には毎年担当者達からのフィードバックを受け、必要に応じてプログラムを改善している。
[iv] 大学全体がとっている2/3の出席率では、語学の授業としてはあまりにも甘すぎるため、センターでは独自の出席条件を設定している。
[v] 口頭発表の際には、実際の授業例として第1課(前期第2回目授業)と第5課(後期第18回目授業)の一部を教科書とテープで提示し、簡単な聞き取り指導について触れることができたが、ここでは割愛する。
[vi] 報告者の記憶に現在も残っている素晴らしい質問の中には、複数の(不)定冠詞や文法上の性、du/Sieの存在理由、冠詞の活用する理由等を尋ねたものがある。これらの問題は、一般言語学理論や言語類型論の観点から見てみると、日本語や英語とも興味深い関連性や対比を示すため、この点を噛み砕いて解説すると学生達にとって身近な諸言語とドイツ語との距離を縮めることが可能となり、ドイツ語に対する親近感が生まれてくるようである。

 

安井 綾(慶應義塾大学大学院生)-- 第87回例会~~~~~
ベルリン・ヨーロッパ学校をモデルとした相互的言語教育の提案
1.問題と目的
国境を越える人の移動が増大するなか、学校教育の場では、居住地域と異なる文化を背景とする子どもたち(多くは外国人、特に移住者の子どもたち)にどのような教育が提供されるべきか、また、マジョリティである受け入れ側の子どもたちにはどのような教育が必要か、ということが問題となっている。特に、言語に関する問題は、異文化圏に生活の場を移した子どもたちがはじめに向き合う問題であり、その後もさまざまな場面で影響を及ぼすと考えられる。また、マジョリティ側の子どもにとっても、自分の話す言語を理解しない同級生に接する戸惑いがある。この問題に対して、これまで日本の公立学校は、日本語のできない子どもたちに日本語の指導を行うという方針をとってきたが、近年では、母語・母文化教育や積極的な異文化間教育の視点からの指導の必要性が認識されつつある。「国際化」現象は、異文化圏に来た子どもたちと受け入れ側の子どもたち双方にとって、異文化を意識し、視野を広げるチャンスとも考えられる。
本研究の目的は、このような視点に立って、日本の「内なる国際化」を具現する教育政策の一例を提案することである。その際、異文化間教育から見た言語教育の実践であるドイツ・ヨーロッパ学校のモデルを例にとり、日本の学校教育に応用する可能性について検討する。

2.「国際化」に対する現在の日本の政策―神奈川県を中心に
神奈川県教育委員会へのインタビューやWebサイトを含む文献調査を行ったところ、以下の点が確認できた。
1. 外国人児童・生徒に対する教育施策の主なものは、日本語教育に関するものがほとんどである(国際教室・藤沢市言語相談員による巡回指導など)
2. 公立学校での母語教育や母語の保障は国・県・市町村のいずれの方針としても打ち出されていないが、神奈川県愛川町や静岡県浜松市の例のように、母語に焦点を合わせた試みが徐々に始まっている
3. 「総合的な学習の時間」に取り上げるトピックとして、文部科学省は「国際理解」を挙げており、神奈川県下の外国人児童・生徒が在籍する小学校でも取り組みが始まっている
4. 高等学校までに英語以外の外国語を学習する機会は限られているが、外国語教育の多様化は徐々に進みつつある(文部科学省「高等学校における外国語教育多様化推進地域事業」)
「国際化」を踏まえた施策である上記1~4の中で、1・2は外国人児童・生徒に対する教育、3は国際理解を目指した教育、4は主として日本人児童生徒に対する外国語教育の範疇に入るものといえる。しかし、これらはそれぞれ別のものとしてとらえられており、三者を統合した政策の立案・実施には至っていない。

3.ドイツ・ヨーロッパ学校(ベルリンモデル)の実践
住民全体に対する外国人の割合が10%に迫るドイツでは、EUの方針に従い、多言語の外国語教育、他のEU諸国に対する理解を進める教育が推進されている。その中で、「(異文化・異言語への)出会いの学校」として1992年から二言語教育を行っているベルリン市の「州立ヨーロッパ学校(Staatliche Europaschule Berlin)」に注目し、現地調査と文献調査を行った。ヨーロッパ学校には次のような特徴がある。

・5歳児クラスから大学入学資格取得まで、ドイツ語と学校ごとに決められているパートナー言語(Partnersprache)での二言語教育を行う
・1クラスは、ドイツ語を母語とする生徒とパートナー言語を母語とする生徒が半数ずつになるように構成され、教員もドイツ語母語話者とパートナー言語母語話者の両者が担当する
・教科の半分がドイツ語で、半分がパートナー言語で教授される
・パートナー言語は現在、英語、フランス語、ロシア語、イタリア語、スペイン語、トルコ語、ギリシャ語、ポルトガル語、ポーランド語の9言語である
・2002年現在、16の小学校と10の中等教育学校に約4200人の生徒が在籍している
・公立なので、費用は他の学校の場合と同じく無料である
・入学試験は実施せず、希望者多数の場合は抽選を行う
・パートナー言語を公用語とする各国のさまざまな協力がある
実際に学校を訪問した結果、ヨーロッパ学校は集中的な外国語教育や、外国人児童・生徒に対する母語教育を行っているばかりでなく、「一緒に学ぶ、お互いから学ぶ、お互いのために学ぶ(Miteinander Lernen – Voneinander Lernen – Fureinander Lernen)」のモットーの通り、異文化を積極的に認識し、かつ異文化を背景とする生徒の間の相互作用に着目した、異文化間教育を実践する学校でもあることがわかった。ヨーロッパ学校に対する総合的な評価は、13年の課程をすべて終えた卒業生を初めて出す2006年まで待たれるが、デンマークのコペンハーゲン市でも同様の取り組みが始まるなど、「ベルリンモデル」の一定の成果はあがっているものと考えられる。
ヨーロッパ学校ベルリンモデルは、外国語教育、母語教育、異文化間教育を、政策としてひとつの学校制度に包括するという点に最大の特色がある。また、三者は相互に補完関係にあるということができる。

4.日本への応用可能性
ヨーロッパ学校のモットーは、日本の学校教育でも目指されるべきものと考えられる。ベルリンの実践をそのままの形で日本の学校教育にあてはめることはできないが、モデルとして日本に生かすことはできるのではないか。そこで、ヨーロッパ学校の成功要因について、ベルリンと日本の相違点および共通点を「政策主体」「言語教育」「外国人側の要求」「受け入れ側の動機」に分けて整理してみた。その結果、課題は指摘できるものの、構造改革特区や外国語教育多様化の波、外国人側の母語教育に対する要求、アジアおよび日系移民受け入れ国との協調など、ヨーロッパ学校を支える素地は徐々に整いつつあることがわかった。部分的に、もしくは将来的に、ヨーロッパ学校は日本に応用可能であるということができる。
具体的には、多くの外国人が住む地域で「総合的な学習の時間」に外国人の母語である言語の学習を行い、学校選択制と連動して学校の特色にすることや、単位制高等学校等で日本語教育・母語教育・国際理解教育を一元的にカリキュラムに位置付けること、「教育特区」としてヨーロッパ学校のような学校・クラスを新設することなどが提案できる。多様で柔軟な言語教育政策は、地域の「内なる国際化」に合った異文化への積極的な関わりを促進し、そこからポジティブな相互作用を生み出すと考えられる。