発表者
積田活樹
日時:
2019年11月24日
場所:
成城大学

発表要旨:
本発表はインゲボルク・バッハマンの飛行機の表象について論じる。しばしば彼女の作品には飛行機のモチーフが様々なかたちで登場する。しかし先行研究で飛行機表象が注目されたことはほとんどなかった。飛行機の発明と普及によって、人間の知覚と社会は大きく変化した。文学が飛行機をどう描いてきたかという主題は研究に値する。 そこで彼女の初期詩作品(1944-1953)とエッセイ『密航者たち』(1955)に登場する飛行機モチーフの分析を試みる。 彼女の最初期の詩には飛行機こそ登場しないものの、飛行のモチーフが頻出する。ハンス・ヘラーの研究(1987)によれば、初期詩作品は作者自身の戦争経験と密に結びついており、それは飛行モチーフが登場する作品にも当てはまる。飛行機を主題とした詩「夜間飛行」(1953)も例外ではなく、戦争のトラウマ的記憶と結びつけて解釈できる。 『密航者たち』は作者自身の飛行機体験を主題化したエッセイである。「夜間飛行」と同様、この作品でも飛行機の表象は暴力と結びついている。そうした飛行機に対する批判的観点は、マルティン・ハイデガーがブレーメン講演(1949)で展開した飛行機批判と部分的に通底する。 一見、このエッセイは一貫して飛行機を批判しているように思える。しかし作中の乗客の視覚の描写に着目すれば、バッハマンの中心的トポスである「越境」が飛行機によって実現していると解釈できるだろう。彼女の飛行機表象は単なる近代技術批判ではなく、その克服も示唆しているのではないか。